第一話 『噂の真実』
次に目を覚ました時、既に時刻は夜九時を回っていた。
「ヤベッ、流石に寝過ぎたな」
ちょっとした仮眠のつもりだったがどうやらガッツリと寝てしまっていたらしい。
そして未だに母は帰ってきていないようで家の中は静まり返っていた。
すると『グゥ~』と腹の虫が部屋中に響き渡る。
「ご飯、買いに行くか」
そうして僕は制服のまま財布だけを手に近所にあるコンビニを目指す。
家を出ると既に日は落ち辺りは真っ暗で街灯の灯りも頼りない。
「少し肌寒いな」
そう思いながらも僕は夜の道を進んでいると、朝も通った交差点で僕は見知った
顔の人物を発見する。
「あれって、もしかして高梨さん?」
それは今日の休み時間に友人との話題に上がった高梨藍華だった。
「マジかよ。ほんとにこんな時間に出歩いてるのか」
正直、優等生の彼女がこんな時間まで夜遊びしているなんて思いもしなかった。
だがしかし、考えてみれば彼女も一人の女子高生。
周りがどんな清廉潔白な印象を持とうと、所詮はそれは他人事で彼女の行動を
縛るものではないということだろう。
「しかし妙だな」
遊びに行くにしてもどうして制服姿のままなんだろうか。
それによく見ると彼女の肩には何やら細長い棒状の袋が掛けられている。
黒い布のせいかあまりハッキリとは見えないので中身が何かまでは推測しかねる
が、見た限りでは細身の彼女と比べてると結構な大きさであるのは間違いない。
「習い事とか?」
だがそれならわざわざ本人が否定するだろうか?
滝谷の話によれば夜に彼女を見た人物たちは皆、後日そのことを彼女本人に
尋ねた際ハッキリと否定されているという。
それだけ聞けばただの他人の空似や見間違いってことになるのだろうが。
生憎と僕は視力がいい。
たとえ夜中だろうと、反対車線を歩く知人をも正確に認知できる自信がある。
そんな僕が目の前を通る彼女を見間違えたとは考えにくい。
だがきっと後日それを彼女に確認しようとしても、僕もまた他の人と同様に
はぐらかされて終わるだけだろうことは想像に難くない。
なら答えを確かめ方法はただ一つ。
「直接現場を押さえればいい」
呟くと僕は彼女を追いかけ始める。
それは寝起きの清涼感と、噂への好奇心、そして彼女への単純な興味によって
もたらされた一時の感情に過ぎないのだろう。
だがそれでも僕の足は止まらない。
そしてそれはまるで何かに惹きつけられるような感覚だった。
◇
「はぁはぁ、一体どこまで行くんだ?」
僕が彼女を追いかけ始めてから数分。
声を掛けようと彼女を追いかけたはいいものの、思いのほか彼女の足が早く
息の切れた僕は電柱に手をついていた。
「これじゃまるでストーカーじゃないか。こんな姿、学校の人に見られたら
言い逃れできないぞ全く」
もういっそのこと諦めて帰ろうかとも思った矢先、彼女は僕もよく知るある場所へ
と入って行った。
「あれって学校か?」
そこで僕は追いかけていくうちに知らず知らず、学校の裏口へと辿り着いていた
ことを知る。学校の裏口は旧校舎近くの山沿いにあり、そこに至るには入り組ん
だ路地を抜けなければならないという超絶不便な場所にある。なので普段、正門
しか利用しない僕のような生徒にとってこの場所は全く見覚えがなかったのだ。
「どうする?」
流石に夜の校舎に侵入するのは色々な意味で勇気がいる。
だがそれと同時に、僕は彼女が何故こんな時間に学校へと入って行ったのかが
余計に気になっていた。
まさか忘れ物を取りに来たという訳ではないだろう。
彼女が通った裏門に目を向けると鍵は開けっぱなしのままになっている。
「あぁ、もうこうなりゃヤケだ。行くか!」
そうして僕は意を決し夜の学校に飛び込んだ。
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