第13話 ~佐藤マユside2~ 謎の男
夕食後、マユは豪華な部屋に通された。
「いい部屋ね」
マユが言うと、黒いワンピース姿のメイドがうやうやしく頭を下げる。
「こちらは聖女様にご用意された、特別なお部屋でございます」
その言葉に、マユは満面の笑みを浮かべて部屋を見回す。
壁紙は金色のモザイク、窓際には金糸のカーテン。
高級そうなソファやアンティーク調の化粧台も、上品でいかにも高そうだ。
広い部屋を歩き、奥の扉を開けた。そこにも真っ白なドレッサーがあり、ガラスの向こうは浴室になっている。まだ濡れていない床に足を踏み入れると、大理石の風呂があり、女神の石像からなど彫刻が飾られ、もうひとつの猫脚のバスタブには赤いバラの花が浮いていた。
なんて豪華なの!
だが、メイドのいる前でテンションを上げるわけにはいかない。
平静を装い、
「お風呂へ入るわ」
マユが言うと、服を脱ぐのにお付きのメイドたちが世話をする。
ゆっくりとバラの湯船につかれば、髪の毛や全身も洗ってもらい、まるでマユは女王様ににでもなった気分だった。
聞けば、王族の身の回りを世話する使用人が黒いメイド服の女性で、客人などの世話をするのが青いメイド服らしい。
特別な聖女の私には、相応しい黒いメイドたちってことだ。
風呂から上がると、そのメイドたちに身体を拭かれ、白い寝衣に着せ替えられた。
化粧台の前で髪を梳かれる。
髪の毛にブラシが引っかかった。
「痛っ!」
「申し訳ございません」
「もういいわ、あとは自分でするから出て行きなさい」
「かしこまりました。何かございましたらお声をおかけください」
マユはメイドたちを部屋から追い出し、一人になった。
部屋の窓を開けて、風に当たる。
赤いバラが咲き誇っている夜の庭園を見下ろした。
その赤いバラの前で、こちらを見上げている赤いスーツ姿の男がいた。
マユは、すぐに窓際から離れてバスローブを上から羽織った。
「覗きかよ、キモっ」
一瞬だったが、全身赤づくめの姿の男だと、わかった。
この部屋を覗く変態野郎だ。
「ん?」
だが、イケメンだったような……。
もう一度、確認するように、マユは窓から見下ろした。
すると、男と目が合った。
赤いスーツ姿だが、それ以上に妖艶な雰囲気の美形の顔に目を奪われる。
よく見れば、服だけでなく、髪の毛、瞳までも赤く輝いているようだ。
怪しく光る赤い瞳が、妖艶な雰囲気でこちらを見上げている。
「聖女様、お屋敷の中に入ってもよろしいでしょうか」
熱い視線と甘く囁くような声に、マユは窓際に手を置きうっとりと眺めた。
「あなた、お名前は?」
「エミルマイトとお申します。聖女様、お屋敷の中へ入ってもいいでしょうか」
おかしな質問だと思った。
聖女様の部屋にうかがってもよろしいでしょうか、って言うべきだろ?
「私の部屋に来たいのでしょ?」
「いえ、お屋敷です」
勝手に入ってくればいいのに、この男は何を言っているのだ。
そうだ。彼は、自分をアピールするために、こうして私に話しかけてきているのだ。
向こうの世界でもモテる女なのだから、この世界でも知らずに私は、こうして男たちを魅了する。
美しく可憐な聖女様の私は、どこにいても男たちから好意を寄せられるのだ。
だが、今の私は、王子の婚約者。そのため、こうして男は警戒しているのだろう。
「ねぇ、部屋の前にいるメイドたちを引き払ってもいいのよ。部屋に来たいのでしょ? いいわよ」
髪をかき上げ、マユは色気たっぷりで彼に視線を向ける。
「今日は聖女様に屋敷に入る許可をいただきたかっただけなので、その許可をいただきありがとうございました」
まだ言っている。
ふん、度胸の無い男だ。よほど、王子が恐いのか……。
まあいい、これから、いつでも機会はあるだろう。
「じゃあ、またね」
そう言って手を振ると、エミルマイトは頭を下げて、正面玄関に回ったようで姿は見えなくった。
あの男もこの屋敷の関係者だろう。
今度、誘えばいい。時間はたっぷりある。
それに王子と結婚すれば、すべて私の物だ。
この庭も屋敷も。
さっきの男は、私の愛人にしてやろう。
そんなことを思いながら、気分よくベッドに入ったが眠れなかった。
食事の後の王子の言葉が頭の隅にひっかかっていたからだ。
あのバリキャリが食堂から出ていた後、王子が「まとまった金をあの女に払って、さっさと追い出せ」と宰相に言っていたのを思い出すと、どうにも落ち着かない。
マユは起き上がると、寝衣のままベッドの周りをウロウロ歩き始めた。
あんな女にお金を払うなんて……。
王子と結婚すればこの豪華な部屋に、メイドたちやあの男も全部、私の所有物になるのだ。
お金だってそう。
一円だってあの女に払いたくない。
マユは爪を噛んだ。
ふざけんじゃないわよ。
ぜったい、ぜったい、あんな女に金なんて渡さねぇ。
全部私のモノだ。
マユは廊下から顔をのぞかせ、大声で言った。
「ちょっと! 今から王子の部屋へ行くわよ、さっさと用意しなさい」
マユが叫ぶと、待機していたメイドが慌てて廊下に出てきた。寝衣からドレスに着替えるのを手伝い、髪をセットした。
大きな姿見に映る自分の美しさに少し落ち着いた。
「これでいいわ」
そうしてメイドたちを引き連れ、廊下を歩く。
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