第228話

松本明良まつもとあきら 視点◆


「・・・って事で本当にゴメン」



雷斗らいとさんが昨日謝りたいと連絡をしてくれていた話をしに来てくれた。


長年大学の関係者にアニメが好きなことを隠してきていた雷斗さんがぼくに対しても・・・心を許そうとしてくれていても・・・無意識に知られたくないと思ってしまったのと、既に約束していたことな上に雷斗さん自身も楽しみにしていた上映会だったので黙って行って来ようとしたところで、偶然美晴みはるさんに出会ったのだそうだ。


たしかに、付き合い始めたばかりなのに他の女の子とデートみたいな事をしたというのは面白くないけど、相手は中学からの友人の妹で雷斗さん自身も小学生の頃から見ている妹みたいな感覚の女の子ということだし、そもそもすぐに打ち明けてくれてくれているのでそれ以上問題になるとは思わなかった。



「いいですよ。ぼくも雷斗さんに言いたくないことは言いませんから」



「う、うーん」



「うそうそ、冗談ですよ。つまらない事で関係を壊したくないですからね。

 言いづらいことでもちゃんと話しますって」



「俺が言えた事じゃないけど、アキラがそう思ってくれているのは嬉しいな。

 俺もこれからはちゃんと言うよ」



「ぼくも嬉しいです。絶対に言いたくないなら良いですけど、できたら言ってほしいですから。

 ところで、その栗山くりやまさんの妹さんを雷斗さんが妹みたいに思っているというのはわかりましたけど、向こうはどうなんですか?」



「自分では言いにくいけど、俺の自惚うぬぼれじゃなかったら・・・恋愛対象というか、憧れみたいなのは感じるな」



「そのの気持ちはわかりますよ。雷斗さんはかっこいいですし、好きになっちゃいますよ」



「おいおい、嬉しいこと言ってくれるじゃん」



「だから、次からは浮気と見做みなしますからね」



「・・・はい、わかりました」



すごくシュンとする雷斗さんが可愛く見えてしまった。



「よろしい。

 ・・・って、ははっ、そんなに畏まらないでください」



「いや、でも今回の件はなんの申し開きもできないし・・・むしろ、話すきっかけになった岸元きしもとちゃんには感謝だな」



「たしかに、美晴みはるさんから連絡をもらった時はモヤッとしましたけど、ちゃんと話せてよかったと思います」



「そうだな・・・俺ももう大学を卒業するし、変に隠すとまた岸元ちゃんに見つかった時みたいになるからアキラが信頼できる人になら言ってもいいよ」



「本当に良いんですか?」



「ああ、どうせもう大学へはほとんど行かないから仲の良いやつ以外はそうそう会わないし問題ないだろ」



「それもそうですね・・・とは言っても、ぼくが言う相手として思い浮かぶのは玲香れいかと今回巻き込んじゃった美晴さんくらいですね」



「わかった。特に岸元ちゃんは既に会っているし、メッセージでもいいから言っといてくれないか?」



「わかりました。あとで電話して話しておきます。

 それで解決として、雷斗さん・・・その・・・あの・・・今日は泊まっていけますか?」




高梨百合恵たかなしゆりえ 視点◆


二之宮にのみやさんに連絡をしたら鷺ノ宮さぎのみや君が年末年始休暇で今は東京の那奈ななさんの元へ帰ってきていると教えてもらい、そのままアポイントメントを取ってもらって訪問することにした。



「こんな年末の差し迫った時にお邪魔してしまい申し訳ありません」



「いいえ、隆史たかしはもう学校を退学しているというのに気に掛けていただけてむしろ感謝してます」



鷺ノ宮君と二之宮さんだけでなく那奈さんも迎えてくれて、むしろ那奈さんが積極的に応対してくれている。



「そんな、私が勝手に気にしているだけですから」



「そのお気持ちが嬉しいのです。隆史もお礼を言って」



「その、本当にありがとうございます」



「いいのですよ。前に二之宮さんにも言いましたが、大学受験をするなら情報などあった方が良いと思いますし、過去問とか資料とか私が用意できるものでしたら協力させてもらいますから・・・でも、本業が音楽教師ですから受験勉強を教えてあげることは難しいのですけどね」



「そんな・・・本来なら手を差し伸べられるはずのない俺に、何かをしてくれようとしてくれるだけでもありがたいです」



「私だって誰彼構わず協力しているわけではありません。鷺ノ宮君が自分の行ったことを反省して、その上で前へ進もうとしているから協力したいと思うのです。

 正直なところ、鷺ノ宮君と一緒に行動していた生徒達の多くは反省が見えませんし、そういう人達へは何もしてあげる気になりません」



「でも、俺だってやる気がないかもしれないじゃないですか?」



「ここへ来る前から信じていましたけど、今は確信しています。

 鷺ノ宮君の目と表情から真剣に取り組んでいると察することができます」



私が口にした通り、鷺ノ宮君は在学中とは違い被害者の女子達や迷惑をかけた家族へ対して贖罪の気持ちを感じられます。そう思って見つめていたら、鷺ノ宮君の目に涙が溜まり溢れて流れ出した。



「ぜ、ぜんぜぃ・・・ぁりがどぅ・・・ござぃ・・・ます」



そして、なんとか御礼の言葉を口にして泣き崩れてしまった。


他の加害した生徒はだいたいが自己保身や将来の心配を、更には図々しいと保護者も交えて便宜を図るように求めてくる生徒もいて心が凍てついたけど、彼は違った・・・二之宮さんが自供した後も二之宮さんが不利になる様な表現はできるだけ避け、恨みごとは言わなかったそうで、自分が悪かったことをちゃんと反省していたのだろうし、禊を済ませたらちゃんと自分のために頑張って欲しいと思う。



それから落ち着いた鷺ノ宮君と二之宮さんが今後どうするかについて話をしてから鷺ノ宮家を後にした。


鷺ノ宮君は那奈さんの説得もあり、期間工で働くのは今の契約期間が終了する3月まででいったん辞めて、それからは東京こっちへ戻ってきて大学受験に専念することにすることにして、二之宮さんも同様に大学受験に向けて今から取り組んでいく方針になったし、私も協力させてもらうことを約束した。


ふたりとも学業は元々優秀だったし、目的意識がはっきりしてきているからきっと良い進路を見付けて進んでくれると思う。

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