第220話
◆
「もちろん良いですよ。聞かせてください」
仮のお付き合いを始めてから以前の『アキラくん』から『アキラさん』と呼び方を変えようとしたのだけど、他人行儀になる気がして『アキラ』と呼び捨てにして欲しいとお願いをしてそう呼んでくれている。今日も何度も呼ばれたのだけど、今だけは言葉に込められている想いが大きいのかとても気恥ずかしく思えた・・・けれども、それは表に出さないように話を促した。
「知っていると思うけど、俺は今まで何人もの女と付き合ってきたし、二股や浮気はしていないけどフリーの時には付き合ってもいない女とも寝てきた。
ケジメを付けてれば個人の自由だと思っていたから、付き合っている相手さえいなければ多少遊んでても良いと思って声を掛けられてお互い後腐れないから良いやと寝る様なバカもやってきた。
時にはそのツケで俺は付き合ってないつもりだった女が俺と付き合ってるみたいな認識の違いが原因のトラブルが遭ったこともある。
そういう事があったのもあって、ちゃんとしようと思ってここのところはそういう事をしていない。
アキラの見た目に一目惚れしたのは本当だけど、話している内に人と人としてちゃんと付き合いたいと思ったんだ。
過去は消せないから、過去が原因で嫌な思いをさせてしまうかもしれないけど、未来は絶対にちゃんとするから俺と正式に付き合ってくれないか」
「あの・・・ひとつだけ聞いて良いですか?」
「ひとつと言わず納得できるまで何度でも聞いてくれ」
「
色々な人と色々な事をしてきているのは聞きましたけど、趣味らしい趣味を聞いたことがない気がして・・・
もっとも、雷斗さんは仕事が忙しかったり付き合いが多いからそういう事が趣味みたいなものなのかもしれないですけど、本当に好きなものは何なのだろうって思ったんです」
「趣味か・・・」
雷斗さんは少し考え込んでしまった。
「あの、言いたくないなら無理に言わなくてもいいですよ」
「ごめん。言いたくないわけではないんだ・・・いや、言いたくないかもしれないけど、アキラには聞いてもらわないとダメだよな」
「ですから、別に無理してまで・・・」
「いや、付き合って欲しい相手に隠し事をするのは
それで俺の趣味だけど、実はマンガとかアニメとかが好きなんだ。大学に入ってから俗に言う大学デビューをして雰囲気を変えて付き合いを増やすようになって多少・・・いや、かなり費やす時間は減ったけど今でもひとりの時や昔の仲間といる時はそういったものを嗜んでる」
「マンガとかアニメですか・・・」
「ああ、大学では誰にも言ってない。知っているのは家族や高校以前から付き合いのある友達くらいで、それもそんなに多くない。
・・・やっぱりオタクは変かな?」
「いえ、変とかそんな事は全然ないんですけど、雷斗さんのイメージから掛け離れててイメージができなかったです」
「まぁ、そう振る舞っているからな。それでアキラは納得してくれたか?」
「はい、今のでまた少し雷斗さんのことが知れたと思います。
ぼくのことを真剣に考えてくれて嬉しいです。
ぼくこそ雷斗さんの彼女にしてください」
「ありがとう」
それから雷斗さんのスマホに入っている電子書籍アプリの購入履歴を見せてもらって、マンガやアニメの原作になっているというマンガみたいなイラストが表紙の小説をたくさん持っていることを見せてもらった・・・見るからにえっちなイラストの作品もけっこうあって『そういう格好をした方が良いのかな?』と思ったけど、身長が高く胸のサイズが残念なぼくには似合わないかなと残念な気持ちになってそれ以上考えるのは放棄した。
雷斗さんの告白を受け入れて互いに用意したプレゼントの交換をしてからレストランを出て、雷斗さんがぼくのアパートまで送ってくれた。
そこまでさせるのはと思って遠慮をしたけれど、せっかく付き合い始めたからその余韻に浸りたいと言われてしまってはそれ以上断れず、素直に喜んで送ってもらうことにした。
アパートの前まで着いて、名残惜しい気持ちと昨日の
「何か変ですか?」
お茶を飲みながら部屋中を眺めながらソワソワしている雷斗さんに尋ねた。
「いや、女の子の部屋に入るのは初めてじゃないんだけど、アキラの部屋だと思うと落ち着かなくてな・・・」
「変に隠さないでいいですよ。ぼくが初めての彼女じゃないってわかっているんですから」
「それを言われるとツラいのだが・・・でも、今日の今日でアキラの部屋に入れてもらえるとは思ってなかったからな」
「部屋に入れたらって思って送ってくれたんじゃなかったんですか?」
「そのつもりは本当になかった。アキラと別れるのが名残惜しかっただけだ」
「ふふっ、なんだか嬉しいですね」
雷斗さんが思っていたよりプレイボーイらしからぬ反応を見せてくれるのがおかしくて笑ってしまった。
「っ!?」
雷斗さんがいきなり口づけをしてきた・・・とは言え、された瞬間は何をされたのかわからず唇に唇が当たる感触でようやく認識した。
すぐには離れず、嬉しい気持ちと驚きの気持ちとが頭の中をグルグル巡っている内に閉じていた唇を押し開けるように柔らかいものが口内へ入ってきた。
その柔らかいものへぼくの舌を絡めてきて脳が蕩けそうな感覚に見舞われ、雷斗さんの舌に吸い付いたりぼくの舌で押し付けたり、逆に雷斗さんの唇へ舌を押し込んで絡めたりして居るうちに幸せな気分が増してきたところで一旦離し、ぼくのファーストキスは終わった。
「あの・・・雷斗さん・・・ぼく・・・」
「アキラ・・・その、ごめん・・・でもあまりにも可愛らしくて我慢できなかった」
「いいんです。ぼくも嬉しかったから・・・」
「その・・・
雷斗さんがぼくを抱きしめたまま耳元に囁いた。それほど大きい音量ではなかったのにすごく大きく聞こえたその声に小さく
案ずるより産むが易しとはよく言ったもので、先日まで怖がっていた行為は終わってみれば幸せなものだった。
たしかに最初はけっこう痛かったし、今も少しヒリヒリした感覚はあるけど雷斗さんの体温を感じるこの感覚の前には些細なものだ・・・
それにしても、雷斗さんは本当に今日は何もせず帰るつもりだった様で
・・・美晴さんはもっと大変だったんだろうな。
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