第217話
◆
今日は早くから
神坂
引っ越しの準備をしていると
お二人からどこへ引っ越すのかと尋ねられたものの、私に関わって欲しくないこともあり笑って誤魔化してお帰りいただいた・・・芳川さんはともかく風見さんはご職業柄探り当ててしまいそうにも思いますが、転居先はセキュリティがしっかりしているマンションだからそれだけでも心理的ハードルは上がると思いますし、拒絶を続ける私のことなどどうでも良くなってくれると期待したいところです。好意を持ってくださるのはありがたいですけど、私の様な
午後になり凪沙が帰ってきた。凪沙はケーキを買ってきてくれた様なのだけど、その箱は無地で知る人ぞ知るような個人経営の隠れた名店的なところで買ってきてくれたのかもしれない。
夜になり、夕食を済ませて凪沙が買ってきてくれたケーキの箱を開けると中からは立派なホールのショートケーキが出てきた。
「すごく立派なケーキだけど、岸元さん達と買いに行っていたの?」
「買ってきたものに見えましたか?
嬉しいです。これは春華さん達に教えてもらって私が作ったんです」
「え?凪沙が作ったの?」
春華さんがケーキを作るのが上手だからと教えてもらって、春華さんからはフォローをしてもらったものの作業自体は全て凪沙ひとりで行ったものだと説明を受け、凪沙の気持ちが籠もったケーキを噛み締めながら食べ思わず嬉し涙を流してしまった。
てっきり手作りケーキがプレゼントかと思ったら、その他にセンスの良いイヤリングも贈ってくれて・・・そもそもイヤリングを先に用意していて、更に追加で手作りのものを贈りたいと考えて美波さんに相談したところ春華さんに取り次いでもらって一緒にケーキ作りをしたというのが流れのようでした。
ケーキを半分くらい食べたところで、インターホンが鳴ったので玄関のドアスコープを覗くと義之さんが立っていました。
「何の御用でしょうか?」
「那奈に誕生日プレゼントを渡したくて・・・」
ドアを開けずに声を掛けたら思った通りの回答をされました。
「前から何度も申し上げていますが、私は義之のパートナーになって良い資格を喪った女です。
いつまでも、私なんかを見ていないでちゃんとした
お
「そんなの俺は納得してない!
那奈と結婚できないなら独身で居続ける!
「本当にそう思われているのですか?」
「ああ!」
「なら、余計にお会いできません」
「なんでだ!」
「それがわかっていないからです。
とにかく、ご両親に孝行することを第一に考えてください。
そして、今日はこのままお帰りください」
「・・・何で頑なに俺を拒むのかはわからないけど、今日那奈が俺の顔を見たくないというのはわかった・・・
残念だけど、ここに那奈へのプレゼントを置いていくから、これだけは受け取って欲しい・・・それを約束してくれるなら今日のところは帰る」
「わかりました・・・義之さんが帰られたらお気持ちは受け取らせていただきます・・・」
義之さんが立ち去り気配が感じられなくなったところで、義之さんのプレゼントを手に取った・・・思わず涙が流れてきた・・・
本当は義之さんと一緒になりたい想いは残っている・・・でも、一時でも風俗で性を売った女が一緒に居て良い人じゃない。今はまだ時間が経っていないから未練がある様だけれけど、中条の家名に傷をつけてしまうし、時が経った時に色んな男性と交わっていたという過去が
幸い転居する事は伝えていないから、次に来る時には無駄足を運ばせてしまうけど、それも私からのメッセージとして受け止めてくれるはず・・・
◆
那奈さんの元婚約者の中条さんが来て、那奈さんが玄関越しに言葉を交わして、結局顔を合わすことなく中条さんに帰ってもらっていた。
人の感情の機微を察するのが苦手であると認識した私からしても、ふたりは今でも相思相愛なのだけど、那奈さんは中条さんの世間体やご両親の感情を考えて自分の想いとは逆行して中条さんを拒絶している・・・その好きな人を拒まないといけない状況に苦しんでしまっている・・・
那奈さんのその様子を見るのは自分が直接罰せられるよりもずっと重く心が苦しくなる・・・それこそ監禁されて凌辱され暴力を振るわれ続けていた時の方がマシなくらいに辛い。
前に那奈さんへ謝罪したことがあったけど、那奈さんは私を責めることはしないし謝罪を受け入れてくれて、十分謝ってもらったからもう言わなくて良いとまで言ってくれている。それは那奈さんの優しさでもあるけど、私のせいだと責めてくれた方が気が楽になると思う。
私を責めない那奈さんの側で私のせいで苦しんでいる那奈さんの姿を見続けなくてはならないのは私に課せられた罰ではあるけど、直視し続けるのは辛くて逃げてしまいたくなる・・・喩え、私がいなくなろうが那奈さんは中条さんと
言葉としては知っていたけど、自分が傷つけられるより自分の大切な人が傷つけられる方が苦しいという事を実感している。
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