第196話
◆
土曜日で仕事が休みなので凪沙さんに何処かへ一緒に出掛けないかと声を掛けたものの、
凪沙さんに振られ手持ち無沙汰だったのでいつもより念入りに掃除をしていたら見知らぬ番号から電話があった。恐る恐る出ると都内の病院からのもので、凪沙さんが怪我をして運び込まれて現在も意識が戻っていないという話だった。
すぐに支度をして連絡があった病院へ行き、凪沙さんが運び込まれた病室へ入り
また、警察の方もお見えになり状況を説明してくれた。
妹さんは傷害の現行犯としてまだ警察署で取り調べを受けているそうで、凪沙さんを怪我させてしまった事に混乱して泣いていて調書作成がスムーズに進んでいないとのことだ。
凪沙さんのせいだと思いたい気持ちはわからなくもないけれど、高橋君は率先して
病院の方たちと警察の方の話を聞き終え、精神的にものすごく疲れを感じて自販機で飲み物を買ってきて眠り続ける凪沙さんを見ながらこれからするべき事を考えた。
ご両親や親しい人たちへの連絡をしないといけない。ご両親はともかく、最近親しくしている
まず・・・凪沙さんのご両親へ連絡をしたものの、母親からは着信拒否をされていて、父親は
次に・・・岸元美晴さんへ連絡をしたら、美波さんと高梨先生への連絡を請け負ってくれて、更に私の連絡先を伝えてくれる事も申し出てくれた。薄情な凪沙さんの父親の直後だったので美晴さんの気遣いに思わず涙を流してしまった・・・気恥ずかしいので悟られていないと良いですが・・・
美晴さんへの連絡を終えてから次はどうしようかと思案しはじめたところですぐに高梨先生がお電話をくださった。お見舞いのお言葉を掛けてくださり、できる事があれば協力すると申し出てもくださった。既に退学をしているのに生徒として向き合ってくださる姿勢に在学中にもっとご縁があれば良かったのにと思った。
高梨先生との通話が終わって、高梨先生のお気遣いの言葉を反芻しながら気持ちを落ち着けていたら、今度は美波さんからメッセージが入り、内容は凪沙さんの事を気遣う言葉と何かあったら連絡をしてほしいというお願いだった。美波さんは凪沙さんがしたことの影響で隆史たちに酷い目に合わされたというのに、それは関係ないと考えてくれているとのことでありがたい存在だと思う。
美波さんへお礼と何かあった場合やそうでなくても落ち着くまでは適宜状況をお知らせすることを約束する旨の返信を行なった。
◆高梨
美晴さん伝手に
とは言え、意識が戻っていないと言うのは心配だし早く目を覚まして欲しいと思う。
二之宮さんのことが気になって何も手に着かず、気が付いたら夕方になっていてみゆきが仕事から戻ってくる時間が近付いていた。
流石に仕事をして来たみゆきを出迎えるのに何もしないと言うのは申し訳ないので、急いで買い物をして夕飯の支度を始めた。
急いだ甲斐があってみゆきの帰宅の直前に食事の用意ができ、出迎えることができた。
みゆきが部屋着へ着替えてきてふたりで食事を開始した。
「ねぇ、百合恵。何かあった?」
「あったわね。でもどうしてそう思ったの?」
「味付けがあなたらしくないからよ」
「そんな・・・いつもと同じだと思うけど・・・」
「そうね。別に不味くはないし、いつもより美味しく感じるほどだわ」
「ならいいじゃない」
「まぁね。ただ、いつも健康を気遣って薄味に仕立てるのに今日の食事はとても味が濃いわ。
これはこれで、母親の味付けに近いから私は好みだけれど、脈絡なくそんな味付けにするあなたが心配よ」
「言われてみればそうね。たしかに味が濃くなってしまっているわね」
「気付けた?なら良かったわ」
「どうしてかしら?」
「味付けを濃くしてしまうという事は味覚障害の初期症状とも考えられるの。
そして、突発的に味覚障害になってしまうのはストレスが原因になっていることもあるわ。
気付けたのなら今はそれほどおかしくなっていないということ。
「そうなのね。みゆきはよくそんなことを知っていたわね」
「まぁ、ピアノはメンタルの部分もあるじゃない。気にしてそういう事も勉強してたのよ。
今はそれは良いわ。百合恵、何かあった?」
見透かすみゆきに対し、二之宮さんの一連の出来事について話した。
「そういうことね・・・本当はよくないけど、あなたの性格からしてお見舞いに行って、今その女の子を保護してくれている人に会って来た方が良いわ。
中途半端に触れているせいで気掛かりになってしまってモヤモヤしてしまっているのよ」
「でも、目も覚まさないのに・・・迷惑になるわ」
「ええ、迷惑になると思うわ。でも、会ってきた方がいいわよ。
良くも悪くも情報が中途半端なのは良くない想像を膨らませてしまいがちだし、できる限り正しい情報を持っていることがストレス軽減に効果的なのよ」
「でも・・・」
「いいから、その保護してくれている人に連絡して良いって返ってきたら明日行ってきなさいな。
迷惑かもしれないけど、案外その人だって事情をわかっている人に話をしてスッキリしたいかもしれないし、そうだったら感謝されてもいいくらいよ」
みゆきはわたしの蟠りについて見透かしていて、それを払拭する方法を提示してくれた。ここまで背中を押してもらったのだから、鷺ノ宮那奈さんへ連絡をしてみるだけはしてみようと思う。
迷惑どころか歓迎する旨の返答があったので、明日お見舞いに行ってくることとなった。
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