第194話

春日悠一かすがゆういち 視点◆


姉貴の介入で百合恵ゆりえと別れ、すぐに藤川悦子ふじかわえつこさん・・・悦子と再婚した。


百合恵との離婚が成立する前はしおらしく振る舞っていた悦子は本質的には図太い性格のようで、百合恵が出ていった直後に百合恵の荷物を撤去させ、互いの両親への挨拶もしないまますぐにに住み着き、婚姻届もすぐに書かされた・・・確認はしてないが役所に提出されていて公的には俺と悦子は夫婦となっているのだろう。




姉貴も目をかけている後輩がいるからか休日には都合をつけてやってくることが多くなり、ここのところうんざりするくらい顔を見ている。


とは言え、姉貴は良かれと思っているのがわかるし、その気持ちは感じられるのでまだマシで、悦子は裏表が激しくしかもその裏を姉貴には見せていないようで悦子の悪意に姉貴の善意が後押しする様な格好になり俺の精神的な負担はかなり大きなものになっている。


悦子と一緒に生活をする様になって1ヶ月半くらいだと言うのに既に家にいることが苦痛になり始めている。


だからと言って職場は俺が百合恵にDVしていたと言う話が広まっていたところに離婚したことで拍車がかかり、時間を置かず悦子と再婚したことで手に負えない状況になっていて、事ある毎に露骨な陰口が耳に入ってくる様になっていて、職場にもいたくない状況だ。


また、悦子とは身体の相性が良いのかと思っていたが、恐らく経験が多い故にセックスが上手いというだけの様だ。婚姻するまでは貞淑を装って露骨な事をしなかったが、婚姻してからは隠す気がなくなったのかAV女優みたいなテクニックで俺の身体を弄び、些細な刺激でも大きな嬌声をあげる貞淑とは対極にあるような状況だ。ただの男好きだったらまだマシで、AV女優や風俗勤めや援助交際などいかがわしい事をしていたのではないかと思わされるくらいだ。


百合恵は俺とが初めてで恐らく俺以外とはそういう事をしてなかっただろうし、それでも何とか尽くそうと俺にすら知られない様に注意を払いながら慣れないAVを見て羞恥に耐えながら巧くなろうとしていたのも知っている・・・百合恵はそういうところも真面目で良い嫁だった。


俺が百合恵を嫌ったことはなかったけど、嫌われるようなことはたくさんしてしまったのは猛省しているところだが、覆水は盆に返らない・・・願わくばもう一度やり直す機会が欲しいが・・・



また密かに俺の生殖能力について検査し、結果は能力がかなり弱く妊娠を望むなら不妊治療を行う必要があるということだった・・・無知にもこどもを授からないのは全て百合恵の体質のせいだと思い込み、あまつさえ俺の家族と一緒になって皮肉を言い続けていたのだから、愛想を尽かされて当然だろう。


百合恵に会って謝罪をさせてもらいたいが、落ち着いて仕事ができない分を家に持ち帰ってやっていたり、悦子の相手をさせられたり、更にはよく来るようになった姉貴の相手までする羽目になっている現状ではその時間を作ることもできやしない・・・あーもうめちゃくちゃだよ!




その前に、また始まる一切心が休まらない休日を目前に逃げていなくなりたい衝動が掻き立てられている。




二之宮凪沙にのみやなぎさ 視点◆


那奈ななさんへのプレゼント選びの下調べに街へ出てきた。


那奈さんの誕生日まではまだ少し日数に余裕があるし、美波みなみさんは期末テストが目前の時期なので、今週はひとりで予習と言った感じになる。


いくら美波さんが一緒に選ぶのを手伝ってくれると言ってくれているからと何の準備もしないのは良くないだろうと思ったからだ・・・もっとも、以前の私だったらそんな事を考えもしなかったと思う。美波さんの人の善さに付け入るようではあるけれど、親しくあり続けたいと思える初めての友人で、それを維持し続けるためにどうすればと考えて、浮かんできたことだ。



それにしても、さすが12月。街には人が多いです。


予算はそれなりにあるので、デパートから見て回ることにしました。




「おいアンタ!二之宮凪沙だよね!」



小物のコーナーで品物を見ていたら、少し大柄の中学生か高校生くらいの女性に突然肩を掴まれ怒鳴り付けられた。



「何黙ってんだよ!」



急なことだったので返す言葉が出てこず頭の中で今の事態を整理している間に相手の女性が更に怒声を重ねてきた。



「急でしたので、状況を理解するのに動けませんでした。

 あなたは何者なのでしょうか?」



「あなたに人生を滅茶苦茶にされた高橋英人たかはしひでとの妹だよ!」



「高橋先輩の妹さんでしたか・・・私が悪かった点があることは事実なのでその点については謝罪しますが、現状へ繋がる行動を選ばれたのは高橋先輩ご自身です」



「はぁ?アンタが余計なことしなかったら兄ちゃんはあんな事しなかったよ!」



たしかに妹さんの言う通り、唆したのは私なのは間違いなく、それがなければ学校を退学し社会的制裁を受けることもなかったかもしれません。あるいは、集団となる様にした事で罪悪感を希薄にし、私が知らないところでも蛮行を繰り返すようになったとなると、それも私が悪かったのかもしれません。


しかし、全て選んだのは高橋先輩で、私は私を相手にすることだけを提案しただけですし、他の人へその牙を向けたのは高橋先輩の責任です。


そんなことまでは私のせいだと認めるわけにはいきません。私一人ならともかく那奈さんにご迷惑をおかけしてしまいますので、謝罪すらしてはいけない場面です。



「たしかに余計なことをしたのは事実ですが、それを都合よく解釈して実行されたのは高橋先輩です。

 私以外の生徒に行なったのは私の預かり知らない話ですし、その事まで私の責任にされては困ります」



「なによ!アンタは自分が悪くないとでも言いたいの!」



「いいえ、悪い部分はありました。でも仲村なかむら先輩たちへ同じ事をしたのは高橋先輩達の選択です。

 そもそもそんな事をしていた事すら知らなかった私にその責任まで私に押し付けないでください」



「なに屁理屈並べてるのよ!」



「屁理屈ではないですよ。ただの事実です」



「もうふざけんなよ!」



我慢ができないとばかりに妹さんは私に殴りかかってきました。


妹さんの拳が思いのほか勢いよく頬に当たり、頭部へ強い衝撃を受け意識を失った。

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