第150話

神坂夏菜かみさかかな 視点◆


目を覚ますと身体が重く右腕が動かず見れば隣で美波みなみが抱き着いて寝ていた・・・抱き着かれているせいで痺れも感じるが、美波の表情は安らかそうではあるので一緒に寝た甲斐はあった様で良かったと思う。


時計を見るとまだ早い時間なので美波を起こさないようにそっと左手で枕元のスマホを手に取りロック画面を見ると、友人たちのグループからメッセージの着信をしていたので見てみたところ裏サイトに警告するような書き込みがされたという話題になっていた。


理路整然と裏サイトの書き込みだけでも発信元の情報から身元が割れて将来を台無しにしかねないという内容で、更に書き込みを続けるのであれば積極的に身元を特定して相応の責任を取らせるというところまで書き込まれていた。そこからは流れが急変し美波たちへの言及が隠されるように意味のない書き込みが急増し、一部のものは反省をしていると書き込んだり、美波たち特別教室の生徒を害そうとしていた者たちへの批判が書き込みの流れになっていた。


ここまで突っ込んだことをする動機とできる能力があるのは冬樹ふゆきくらいだろう。美晴みはるさんのためというのもあるだろうが、元々持っていた身内のためには労力を惜しまない冬樹の性質が垣間見える。冬樹はあの事件から周囲への関心が薄くなっていた節があるけど、そのどうでも良いと思っていた感じが鳴りを潜めてきているのは良い傾向だと思う。



「おはよう、夏菜お姉ちゃん。

 なに笑ってたの?」



「笑っていたか。

 いや、冬樹と思われるアカウントが裏サイトの書き込みに対して釘を差して流れを変えていたのでな」



「冬樹が?」



「ああ。美波たちを害そうとする書き込みをした人間を特定する手段はあるし、今後もそんな書き込みを行うなら将来の進路先へリークするぞという脅迫めいた書き込みが行われてた。

 こんな事をする動機と能力があるのは冬樹くらいだろうから恐らく冬樹が行ったということで間違いないと思う」



「そっか、冬樹が・・・お姉ちゃんのおまけなんだろうけど、それでも嬉しいかな」



「たしかに今の冬樹からしたらお前は美晴さんの妹だな、ふふっ。

 それはそれとして、腕が痺れているから放してくれないか?」



「あっ、ごめん」



寝る前は美波をひとりにするのが少し心配だったが、今は大丈夫だろうと職員室へ行くため早めに家を出た。



登校中に冬樹へ裏サイトの書き込みのお礼をメッセージで送ったが返信では恍けられてしまった・・・そんな事で誤魔化されないのだがな。




高梨百合恵たかなしゆりえ 視点◆


昨夜夏菜さんから連絡をもらっていた裏サイトのことが気に掛かり、いつもよりも早く登校した。



着いた時には修学旅行で不在の先生が多い上に学校へ来ている先生方も部活の朝練に出ていたりで職員室にはほとんど人がおらず、わたしが話しかけやすい先生はいらっしゃらないので席に着き心の準備をしながら待っていたら夏菜さんが職員室へ姿を見せた。


まだ職員室にはあまり先生方がいらっしゃらないけれども生徒指導の大塚おおつか先生がいらっしゃって、夏菜さんは大塚先生の元へ行き話を始めた。事前に話を聞いていたわたしが知らぬ顔をするわけにもいかないので夏菜さんと大塚先生が話をしているところへ近付いていった。


裏サイトについては書き込んだ人が将来的に傷付くリスクを知らしめて牽制する書き込みが行われてから流れが変わり現在は収束しつつあるということで、特別教室の生徒達の今後についての話が中心になっていった。


前生徒会長の夏菜さんと大塚先生が話をしているところにわたしも側に居たことで注目を集めていた様で気が付いたら多くの先生方に囲まれていて驚いた。



結局、夏菜さんと大塚先生が中心となって話が進み、役職が高い先生方と夏菜さんが校長室へ移動していった。



その後の朝ミーティングの時に発表された内容に拠ると、最終的には該当する生徒や保護者と相談してから正式に決めることになるけど、仲村なかむらさんは今後登校しないでも卒業できるようにする事となり、冬樹君と岸元きしもとさんと芳川よしかわさんも通信制の高校への転校などで便宜を図るという事になった



校長先生との話し合いについては夏菜さんが主導権を握り続け、校長先生が理事会に責任を持っていこうとするも、夏菜さんはそれを許さずに校長先生から言質を引き出したと言うことで、そのことが話題になっていた。


わかっていたことではあるけど、夏菜さんは本当にすごい生徒だと思うし、同時に事前に知らされていたのにただ傍観しているだけだった自分が情けなくなる。

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