第110話
◆
敬老の日の当日になった。結局
『もしもし、悠一』
「なんだよ姉貴。メッセージの件か?」
『そうよ。百合恵さんがまだ怒っていてこっちへ来たくないのかも知れないけど、あんたは来なさいよ』
「なんだよ、別に俺1人くらい居なくてもいいだろ?」
『何言ってるの?敬老の日なんだからおじいちゃんとおばあちゃんにお祝いを言うのは当然でしょ。
うだうだ言ってないで今からでもこっちへ来なさい』
「まったく簡単に言ってくれるけど、そっちへ行くのだってけっこう時間がかかるんだからな」
『なに都会の人間ぶってんの?
私が大学の時は同じくらいの距離を毎日通学してたのよ』
「はいはい、わかりましたよ。行けば良いんだろ」
結局、姉貴に押し切られて1人で実家まで行くことにし、百合恵にその旨を伝え家を出た。
マンションの敷地を出て、駅へ向かって歩き少し進んだところで先日の
「こんにちは、これからお出掛けですか?」
「ああ、敬老の日なんで実家まで行って両親のお祝いさ」
駅へ向かって歩き始めたのに、推定二之宮嬢は隣に付いて一緒に歩き始めた。
「旦那さんって孝行な方なんですね」
「いや、行く気はなかったんだけど、姉貴に無理やり呼び付けられて仕方なくね」
「それでも、わざわざ足を運ぶのなんて親孝行だと思いますよ。
「百合恵はちょっと・・・都合が悪くて、ね」
「そうなんですか。ところで、ご実家ってどちらなんですか?」
「埼玉県の川越なんだけどわかる?」
「ええ、有名な都市ですから知ってますよ。
なんなら途中まで付いて行って良いですか?」
「ええ?なんで?」
「今日は約束があってこっちへ来ていたのですけど、こっちへ着いてからドタキャンされてしまって『これからどうしようかな?』と思っていたところだったのですよ。
どうせ移動するなら誰かとお話しながらの方が良いじゃないですか?」
「言わんとする事はわかるけど、どこまで付いてくるの?」
「川越まで行くなら池袋は通過しますよね?
そこまでご一緒させてもらえればと思います」
「まぁ、それなら良いけど・・・
そう言えば、君の名前を聞いていなかったけど何ていうの?」
「そう言えば、名乗っていませんでしたね。失礼しました。
やはり、彼女が
それから移動しながら二之宮嬢と雑談をしていたが、話題の幅が広く本当に高校生なのかと疑いたくなるほどだった。
やはり偏差値が高い高校の生徒だけあって頭の回転も良いのだろう・・・
結局、終始雑談をしていたまま池袋に到着し、二之宮嬢は下車していって別れた。
その後はひとり実家最寄り駅まで電車に乗り続け、姉貴には到着予定時刻を知らせて迎えに来てもらうようにメッセージを送り応諾の返事をもらった。
駅に着いたら姉貴が車で迎えに来ていたのだけど、一緒に居たのが家族ではなく見知らぬ女性だった。
「姉貴、この方は?」
「悠一に紹介しようと思って・・・私の高校時代からの後輩の藤川悦子ちゃん」
「藤川です。よろしくお願いします」
「春日悠一です。よろしくお願いします。
で、姉貴、この藤川さんはどうしてここに?」
「いやね、本当は悦子ちゃんを紹介しようと思ってあんたを呼んだのよ」
「はぁ?」
「ほら、百合恵さんとは上手くいっていないんでしょ?
あんな離婚するとか啖呵を切ったんだし、あんたも早く別れて次へいった方が良いと思ってね。
悦子ちゃんは見ての通り美人なんだけど、女職場で仕事に精力注いでいる間にお局様になっちゃって縁がなかったのよ」
「先輩!」
「いい
そこで百合恵さんと別れるというのなら、あんたが良いかなって思ったのよ」
「おい!俺は別れる気がないぞ!
藤川さんも姉貴の与太話に付き合わせてすみません」
「まぁ、せっかくお膳立てしたんだから、今日だけでも話をしてみてよ」
「何言ってるんだよ!」
「お母さんたちにはちゃんと言っておくから、今日は悦子ちゃんをよろしくね」
姉貴は勝手なことを言うだけ言って藤川さんを置いて行ってしまった。
「改めて、本当にうちの姉貴がすみません」
「いえ、たしかに今日は強引なところがありましたけど、いつもお世話になっていますし、正直なところ男性を紹介してくれるって言われて楽しみにしちゃってたんですよ」
「それは本当に申し訳ありません」
この短時間で何度藤川さんへ頭を下げたかわからなくなるほどとにかく謝り続けた。
「あの、本当に嫌だったら構わないのですけど、とりあえず今日だけでもお話しませんか?」
「もちろんご一緒させていただきます」
姉貴の身勝手で連れ出された藤川さんの申し出を断るわけにはいかないので、駅近の喫茶店で話をする事になった。
藤川さんは物腰が柔らかく趣味も合うようで、百合恵がいなかったら本当に結婚相手になってもらいたいくらいに相性が良さそうだった。
また、今は仕事を頑張っているけど専業主婦になりたい気持ちもあるという。
つい出てしまった百合恵や姉貴への愚痴もただ単に同調するのではなく相手を気遣う配慮もあるので、自分が悪いのに嫌な気分にならずに済んだ。
楽しい時間はあっという間で2時間ほど話していたのに体感では10分くらいで、悦子さんは帰らなくてはならない時間になったということでお互いの連絡先を交換してお開きになった。
前回川越に来てからずっとモヤモヤした気持ちだったけど、久しぶりに晴れた気分になれた。
◆
「昼間だけでも美波と一緒に居られないでしょうか?」
「たしかに冬樹くんが一緒にいるとなれば、美波は二之宮さんと引き離せると思うけど、冬樹くんはそれで大丈夫なの?」
「正直わからないです・・・でも、美波をこのままにするのはダメだと思うんですよ」
「そうよね・・・とりあえず、病院へ行って
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