第74話

神坂春華かみさかはるか 視点◆


二学期の始業の日、お姉と登校し玄関で別れて自分の教室へ入るとクラスメイト達があたしへ向ける視線が刺す様で嫌な感じだと思いながら、クラスでは一番仲が良いすーちゃんとよっちゃんに声を掛けた。



「おはよ!今学期もよろしくね!」



「う、うん」



「悪いんだけど、これからは声をかけないでくれるかしら。

 よっちゃんもハッキリ言いなよ」



「すーちゃん、なんで?」



「あなた、自分のお兄さんが悪いことをしてなかったのに率先して冤罪を広めたでしょ。

 私達も何かあった時に裏切られるんじゃないかって思うと付き合ってられないのよ」



「ご、ごめんね」



「そ、それはっ。あたしのやったことに悪いところもあったけど、率先してはいないよ!

 第一、あたしがすーちゃん達を裏切るわけないじゃない!」



「だから、それが信じられないって言うのよ。

 それに私達だけでなく学校中がのことを疑っているわよ」




いつの間にか教室にいたクラスメイト達は全員あたし達のやり取りを見ていて、みんながあたしに対して刺す視線が変わっていなかった。


逃げるように自分の席に座ろうとしたら、机の上に1枚の紙が貼ってあったのでそれを見たら『裏切られるのは嫌なので文化祭も体育祭も参加しないでください。クラス一同』っと書かれていた。


これは一学期にフユがよくされていた嫌がらせで、学校の備品や私物には触れないけど精神的にはるものだ。


すーちゃんも自分が嫌がらせに巻き込まれたくなくてあんなことを言ってきたのだと悟った。




塚田智つかださとる 視点◆


夏休みが明け、新学期が始まってしまった。とても気が重い。


一学期に僕のクラスが震源地となる事件が起き、その関係者だった数名が退学していて、その上被害者の神坂君は籍だけは残したけど実質的には自主退学の状態で、岸元さん・二之宮さんは当面休学。被害者の女子ふたりについては最悪の事態としてずっと登校できないかもしれないけど、卒業ができる様にケアを行うことが決まっているし、その担当も担任である僕だ。


更に今朝職員室で耳敏い先生方に教えてもらったところ、一学期に神坂君を責めていた一部の生徒たちが責任転嫁で僕のクラスを悪者に仕立て上げているという。学校の裏サイトではその流れに便乗する生徒が出てきているそうだ。また、僕には直接関係ないけど、その悪者に仕立て上げられているのは僕のクラスの他に神坂君の姉妹きょうだいもターゲットになっているという。学生はこういった流れができると集団心理でいじめを行うから困ったものだ。そして、いじめを行っていた責任を今回のように負わされて次のいじめの正当化に利用される。


救いなのはうちの学校は有名大学進学を目指す生徒が多いからか悪質な犯罪的ないじめが起きにくく、いじめの内容も物証の残りにくい無視や陰口といった精神攻撃的なものがほとんどな事だろう。



そうこう考えている内に職員室での朝礼が終わり、始業の時間に合わせて教室へ向かった。




「おはようございます。今日から二学期が始まりますが、全員揃って迎えることができませんでした。

 知っている人もいるかと思いますけど、一学期に起きたあれこれで犯罪となることをした生徒が退学になり、被害者の生徒もお休みしている状況です。

 また、その一連の事件の中で冤罪だった神坂君に嫌がらせをしていた生徒の一部が責任転嫁でこのクラスのせいだと広めているとのことです。

 そういう人は得てして嫌がらせを正当化して行ってきたりするので、注意してください。

 そして、問題が起きたり起きそうだったりしたら先生に相談してください」



既に何らかの嫌がらせをされているのか生徒たちの表情はあまり良くないし、諦念を伺わせるものもある。僕がそんな表情をする訳にはいかないが気持ちとしては同じだ。




◆神坂夏菜かな 視点◆


どうやら冤罪被害者だった冬樹への嫌がらせをしていた連中は責任転嫁で私をスケープゴートにする様だ。


残念なことに今まで親しくしていた内の何人かはその流れに乗って私との関わりを絶とうとしているのが感じられた。


今学期は文化祭と体育祭と生徒会役員選挙が立て続けに行われるし、生徒会長としてもっとも忙しくなる時期に私の求心力がなくなるのは頭が痛くなる。



とは言え、私にはそれでも何人も味方がいるから良いが、おそらく春華はもっと大変な状況だろう。主犯や主だった被害者と同じ学年で、しかも冬樹や美波みなみと同じ学年だったために小学校の頃からそれ以外の人間とは学校で話す程度の関係しか作らず、深く付き合う仲の友人を作ってこなかった。今の状況で味方をしてくれる人間は少ないだろうし、最悪1人もいないかもしれない。




今日は始業式とホームルームだけの午前で終わりだった。放課後になって早々に春華へメッセージを送ったが未読のままで、電話をしても出ないので嫌な予感がして春華のクラスへ急いで向かった。





春華の教室へ着くと、嫌な予感の通り春華がクラスメイトにつるし上げられていた。不幸中の幸いで暴力は振るわれていない様だったが、敵意むき出しの生徒たちに囲まれ、縦横無尽に口撃されていた。



「すまないが、春華いもうとを放してはくれないか。用事があって急ぐんだ。

 あと、聞きたいのだが、春華いもうとが何かしたのだろうか?」



睨むように囲んでいた生徒に尋ねても、私と目を合わせようとせず散り散りにほとんどが教室を出ていった。



「お姉・・・あたし・・・」



「何も言わないでいい。とりあえず、高梨たかなし先生のところへ行って相談しよう」





メッセージを送るとすぐに返信をしてくれ、部室で落ち合うことになった。





「話には聞いていたけど、春華さんが一番大変みたいね。

 岸元さん達みたいに、学校をお休みして様子見をした方が良いと思うけどどうかしら?」



「はい、しばらくはお休みさせてもらいたいと思います。

 今日だけでもものすごく辛かったですから、このまま学校へ来ても勉強にならないと思います」



「そうね。わたしもできるだけ悪くない形でお休みできる様に働きかけてみるわ。

 夏菜さんはどうかしら?」



「私はかばってくれる友人がいるので大丈夫です。それに二学期は文化祭と体育祭と生徒会役員選挙があるので、生徒会長の私が休んでいるわけにもいかないんですよ」



「ひとりじゃないのなら大丈夫かもしれないわね。でも、生徒会のことよりも夏菜さんの方が大事だからダメそうだなと思ったら休むことを考えてね」



「はい、ありがとうございます」



今度は春華や私が高梨先生に迷惑をかけてしまうようだ。一学期の冬樹に続いて申し訳ない気持ちになるが、頼もしくもある。


今まであまり接点がなかったが、本当に良い先生と巡り会えて良かったと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る