第60話
◆
思いのほか早く
すぐに寝るよう勧めたが、これから
美波へ説明すると春華の様子もあってか最近見られた軽率な感じも鳴りを潜め沈痛な面持ちで話しを受け止めているようだった。
話が一段落したところでちょうど
ほとんど言葉を発することもなく、それぞれが自責の念を巡らせて待つ時間は体感ではものすごく長かったが、実際には1時間もかからずに美晴さんからの連絡があった。
美晴さんからの話によると冬樹はいくつかの精神障害が複合して発症しているらしいとのことで、本人には自覚がないだけで冤罪事件の際に拒否反応を示した私達に対して無意識に拒絶している部分があり、私達とは関わらないようにするべきという事と、自分の意思がはっきり示せなくなっていて周囲から言われると流されてしまうようになってしまっているとのことらしい。
昨晩のことは、言われるがままに深層心理では拒否したい相手である春華を自分の家に泊めたことで身体が悲鳴を上げて嘔吐したのだろうと察した。春華も美波も同じ様に思い至ったのか、更に空気が重くなった。
特に春華は表情がなくなってしまっていた。
◆神坂春華 視点◆
フユのマンションから自宅へ帰り、お姉が美波ちゃんの家へ状況説明に行くというのであたしもついて行った。
美波ちゃんも昨日はあたしと同じ様に楽観したところがあったけど、突き付けられた現実に困惑を隠せないようだった。
お姉が主に説明し、あたしが補足をする様な形で美波ちゃんへ説明が終わったくらいで美晴お姉から電話があり、あたし達はフユのお医者さんと話をした。
結果についても連絡してくれると言うので美波ちゃんとお姉と一緒に待つことにした。ほとんど寝てなかったので眠気はあったけど、そんなことよりフユのことを少しでも早く知りたい気持ちを優先して我慢した。
美晴お姉が伝えてくれた内容はやっぱりというものだった。
あたしはフユに赦されてなかった。
そして、拒絶を示すこともできなくなってて、近付けば側に置いてくれるけど、それは知らない内にフユを痛め付け苦しめるものになってた・・・これからまた以前の様に仲良くなれると思って浮かれていたあたしは愚かで赦されざる存在だ。
「お姉、あたしどうしたら良いのかな?」
思わず口にしてしまった。
「そうだな、いまの私達は遠くから冬樹を見守るしかないな。
でも、美晴さんならきっと冬樹を癒やしてくれるし、そうなれば私達もまた冬樹の側で笑えるようになるさ」
「本当にそうなれるかな?」
「きっと大丈夫だ。時間が解決してくれるということもあるし、今回のことはまさにそれだ」
「そうだね。美晴お姉ならきっと大丈夫だよね」
お姉にはそう返したけど、あたしはそうはならない予感がしてならなかった。
◆岸元美波 視点◆
夏菜お姉ちゃん、そしてうちのお姉ちゃんがわたしに告げた冬樹の状況は最悪だった。
冬樹と双子で事件直後に責めたくらいしかしてなかったはずの春華ちゃんでも嘔吐させるくらいの拒絶を示されたのなら、冬樹を陥れた
春華ちゃんも夏菜お姉ちゃんもうちのお姉ちゃんにまかせて自分たちは冬樹と距離を置くつもりみたいだし、その考えは正しいと思う。
でも、その状況は私にとって向かい風でしかない。わたしも冬樹と距離を置くしかないけど、その間にお姉ちゃんが冬樹と関係を深めることになるのは想像ができる。
第一この状況になってまだ
春華ちゃん達と違ってわたしは他人だし、交流がなくなってしまえば関係もなくなってしまう。
今更ながら、なんで冬樹を信じなかったのかと悔やまれる。
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