中学軟式野球大会・地方大会編
第62話 話をしよう・続編
話をしよう。
続きの話をしよう。
深中負穏だ。久しいな。
最も、久しいのは私だけであって、多くの人にとっては昨日のことかもしれないが。ついさっき見たばかりかもしれないが。
第二シーズンに入っても変わらず、変わることなく、変化なくやっていこうと思う。それが続編である。
さて、主は夏祭りを経て人間関係を一段と強くし、そしてまた野球をやるようであった。今度は球技大会のときのような、悪く言えばお遊びの野球ではない。本気の野球だ。球児たちが汗を振り切って、その投球、打球にすべてを掛ける。人生を掛ける。負ければそこで終了のトーナメント戦に。死闘を繰り広げるのが、中学軟式野球大会夏季地方大会である。優勝の一校のみが全国大会に行くことができる。それに参加する。
心の主である少年は野球部ではないが、しかし今回補欠で特別参加することになったらしい。決まってからは毎日のように練習をし、体力をつけるための運動をし、訓練をして、もちろんピッチャーとしても投げ込んで、守備練習にも励んでゴロのときのカバーの入り方とかをチェックしていた。その間、生徒会の手伝いは控えていた。断っていた。中々頑張っているみたいであった。青春の汗とか言ったら憤慨されるだろうが、それでも努力のための汗は流していたように思った。
ボールを投げるだけでなく、球拾いも積極的にしていた。器具の出し入れとか、裏方でできることを聞いて、率先してやっていた。自分自身が一番下、新入りの雑魚だと思っているのだ。だから気を使うところに最大限気を使い、チームのために徹底的にやる。自分がチームの一員だと認められるために、チームの一員になるために、やれることは全部やる。全部やっても足りない。その程度の存在だと、そう思っていた。そもそも野球をできる身分ではないのだと、補欠の補欠で、レギュラーメンバーとやりあえてる事自体がありがたいことだと、奇跡のような出来事だと思っているのだ。
最初、野球部からのオファーは全て断っていた。自分を卑下しているところもあるのだが、素人に毛が生えたような、その程度のレベルのやつに何ができるのだろうと思っていたからだ。素人の野球好きに、野球が好きなだけなやつに何ができるのかと。普段トレーニングも、練習もしていないやつがだ。ちょっと球が速いからって、そんなんで誘われて良いのだろうか。そう彼はずっと考えていた。
大会まで一ヶ月を切った学校祭のときにも、彼は誘われていた。同じクラスの野球部から。球技大会の投球を見た下級生の一年生や二年生の野球部から。それは熱心に誘われた。そして野球部の部長、岡村から最後にこう言われたのだ。
「抑え投手を、クローザーを頼みたい。その速球とコントロールはうちにはいない。他にいない。武器になる。頼む。今年、絶対勝ちたいんだ」
クローザー。守護神と呼ばれる投手はチームが勝っている時、三点差以内でゲーム終盤若しくは最終回に登板する投手のことだ。それは信頼がなければ任せることの出来ないマウンドだ。球技大会の時とは違う。あの時は決めてしまえば、そう行うことができた。
「抑えとか荷が重い。先発はスタミナ無いだろうから、せめて中継ぎにしてくれよ」
彼はそう言って野球部からのオファーを承諾した。即座に監督の先生に挨拶に行き、頭を下げて、その日の野球部の練習から参加し、全員に挨拶して頭を下げた。下級生からは頭上げてくださいと、困った風に言われた。三年生にはあまり硬くなるなとか、かしこまるなとか、そんなふうに快く受け入れてもらえた。だから彼は全力でやることを全部やったのだ。そうするしか無かったから。
試合は地方大会の決勝まで勝ち上がった。彼は一回だけ、大量リードの時に打者ひとりだけ相手にし、アウトを取る中継ぎとして少し登板したが、それ以外は出番はなかった。やはりこの野球部が強いのだ。エース影山を筆頭に、強固たる投手陣が居て、一番を一年生が打ち、三番投手影山、四番一塁手、部長で主将の岡村、五番捕手国崎と続く打者ラインナップ。守備も隙がなく、エラーはゼロ個。中学野球ではエラーなんてポロポロ出そうなものだが、これは堅実で強い証であろう。失点こそ幾らかあるものの、それ以上の得点力で全試合勝利してきた。
そして夏休みに入ったその翌日。地方大会決勝戦は行われるのであった。
今回は彼のプレーボールまでのプロローグみたいになったな。私の考察というより、私が見てきた彼についてのお話になった。しかし、それはいつものことじゃあないかとも、そう思った。私はいつも彼のことを見ていて、彼のために
中学最後の夏に、幸あらんことを。
では、また会おう。
さらばだ。
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