第27話 修道院、それと野球帽子

 現地についた。



 駅を出ると、その駅前に整列集合させられた。教師が手でメガホンの代わりのようなものをつくり、指示を出した。これからは班ごとの行動になるのだという。なるほど。仕掛けるなら、今か。俺は渡良瀬と荻野と合流。三人一緒になったところで電話をかけた。作戦開始である。







 ※ ※ ※







「ト○ピスチヌス修道院に行こう」



 俺の提案によって、渡良瀬班と香取の班は目的地へと歩き出した。香取と荻野を先頭にして、俺と渡良瀬が次ぐ。他のメンバーは後ろに雑多である。香取は積極的に話しかけていたので、荻野ともそこそこ良い感じに会話をしながら歩いているようだった。それを見て、俺は渡良瀬に言う。



「小野くん? だっけ。彼も紹介してよ」


「……うん! 香取くんと同じ班だったんだね。小野くん、彼が協力してくれるふたみんだよ。名字は、ええと、九郎九坂。よろしくね」


「よろしく、小野」


「う、うん。よ、よろしく……」



 はっきりしないやつだな。それが彼に対する第一印象。これでは恋愛どころか、友達にさえなれないんじゃないかってレベル。まあ、それならそれで別に俺はいいんだけど。恋路を応援してくれとは頼まれたが、成就させてくれとは言われていない。そう、俺に対して成功は頼まれていない。誰からも。誰にからも。



 修道院についた。ここは、フランスから派遣された修道女によって設立された修道院。ローマ・カトリックの修道会に属し、今も修道女が自給自足の生活を送っているらしい。庭園は入場無料で開かれていて、資料館や売店を利用できる。俺たちは修道院の目の前にある売店でソフトクリームを買って、それぞれに散策しながら見て回った。途中、荻野が二人切りは耐えられないと逃げてきたので、俺は香取と二人になった。



「君が教会に興味があるとは思わなかったよ」


「修道院、な。まあ、実のところ、本当は宗教にはまるで興味がないんだ、俺。クッキー目当てなんだよ」


「ああ、有名だもんな。ト○ピスト」


「いや、違う。ここはト○ピスチヌス修道院。あれは北斗市だ。函館に近いが、実は違う」


「へえ、そうなんだ」


「有名なのが欲しけりゃ、それこそ駅の売店に売ってたよ。山に登っても売ってるし、デパートにも売っている。ここの売りは手作りクッキーとマドレーヌなんだよ。まあ、俺も食べたことないからこうして理由を作って足を運んできたわけなんだが」


「ふーん、なるほどね」



 香取は納得したのかしてないのか、そんな生返事で土産物コーナーのクッキーを見ていた。一つぐらい買っても良いとは思うけど。お世辞抜きに。



「それで、君は何がしたいんだ。僕を助けてくれるんじゃなかったのか」


「ああ、あれか。あれは、まあ、ちょっとお前と仲良くなりたいってやつがいたから夢を叶えてあげたんだよ。香取の案件は今夜、今日当日に叶えてやるから安心しとけ」



「本当かな……」



 まあ、俺ってホント信用ないのね。でも、それで当たり前だとも同時に思った。そうでなければいけない。そう思った。俺に対して信用してはいけない。孤独を好み、ひとりきりでいつもいる端くれのような男のことなど、信用してはいけない。



 俺は帽子を一つ、リュックサックから取り出して香取に渡した。帽子にはFの一文字が刻まれている。



「まあ、信用しなくていい。信じるな、疑え。それでいい。でも約束は最低限こなすから、そこは安心していい。結果が望むものになるとは限らないけどな」


「……なんでファイターズ?」


「そりゃ、地元球団だからだよ」



 そう答えて、そして俺はお土産用にクッキーの箱をいくつか抱えると、お会計をすべくレジへと向かった。



「楽しいといいな、夜景眺望」




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