ハイウェイ クライシス ―交通管理隊、出動せよ―
EPIC
Rotation1:「―Highway Everyday―」
1便:「―Highway Patrol― 前編」
――惑星ジア。
その世界、宇宙には、そう呼ばれる惑星があった。
その惑星ジア上に存在する中でも、最も巨大な海。中央海洋。
その中央海洋の近隣近辺には、複数の大陸と多数の大小の島々が存在しており、それぞれにはまた大小様々な国家が存在――そしてそれ等が纏まり結成された共同体が在り、栄えていた。
中央海洋共栄圏と呼ばれるその共同体。
その共栄圏の国々、人々の繁栄を支えるべく、中央海洋の大陸及び島々には、その上を網羅する自動車専用道路が存在していた。
通称、基幹道路。
中央海洋を分断する赤道付近を中心に、北はフーリグリードと呼ばれる大陸から、南はフレストリニアと呼ばれる諸島国家群までを網羅する、いわゆる高速道路。
あるいは急行道路。ハイウェイ、エクスプレスウェイ等の名で呼ばれる時もある。
その長大な道路群を管理運営するため、各地には大小の基幹道路管理会社、公社が存在している。
その組織等が担う役割は、基幹道路の建設、整備維持から始まり、多岐に渡る。
そしてその一つに、基幹道路上の巡回、緊急事態対応を担う組織、部署が存在する。
――彼等は、〝交通管理隊〟と呼ばれていた。
ある一台の普通車が、とある基幹道路上を走っている。ドライバーはハンドルを握り、法定速度を守った安全運転で、自身の車を走らせている。
「ん?」
そんなドライバーの目に、ある異質な光景が映った。
進行方向先の路肩。本来、人影の見えるはずの無いその場所に、しかし立つ者の姿があった。
遠目にもおそらく〝ゴブリンリーダー〟系の人種と分かったその人物は、青い服を身に纏い、蛍光ベストを纏い、一見この世界の警察に似通った格好をしている。そのゴブリンリーダー系の人物は大きな旗を振るっている。
さらにその先。60〝rw〟程離れた所にはもう二人。背丈の低い〝ゴブリン〟系の人物と、そして〝科学者〟系と思しき人物が、同様の服装を纏い、路肩で待機している様子が見える。
そこからさらに後方には、黄色い塗装を施し、ルーフにLED標識器と赤と黄のパトランプを装備したSUVパトロールカーが停められている。
そして、ドライバーの操る車が彼等のいる地点を通過した瞬間だった。
「――え?渡った?」
ドライバーが一瞬だけ視線をやったバックミラーには、路肩から斜線上へ飛び出した、先の内の二人の姿が見えた。
時間は数十秒程遡る。
二車線ある基幹道路の路肩上に、計三名分があった。
まず一点に、ゴブリンリーダー系の者の立つ姿がある。そしてそこから道路の進行方向に向けて、60rwほどの間隔を空けた地点に、ゴブリン系と科学者系の者が立っていた。
三名は一様に、統一された制服を纏っている。
少し濃いめの青色を基調とし、上衣、ズボン双方、その各所に蛍光テープを施しラインや矢印を描いた制服。
インナーには群青のTシャツ。上位の上からはさらに発光ダイオードの備えられた蛍光ベスト。脚には半長靴。頭部には白色のヘルメット。
そしてそんな姿服装の三名のさらに40rw程先には、黄色を基調とした大型のSUVパトロールカー――〝巡回車〟が停まっている。
黄色いボディには白色のラインが一本、鮮やかに走る。さらに前後バンパーは赤と白で縞模様が描かれ、存在感を醸し出している。
ルーフ上後方には大きなLED標識器を備え、その標識画面には、通行車両に警告を促すマークやアニメーションが流れる。そして標識器のそのさらに上では、搭載された赤と黄の警光灯、回転灯が瞬いている。
それ等の姿、光景は全て、その者等がハイウェイ・パトロール。あるいはエクスプレスウェイ・パトロール。
――基幹道路上の巡視、安全管理を司る、〝交通管理隊〟である事。
そして、その隊員である事を示すものであった。
その交通管理隊隊員である三名。内のゴブリンリーダー系の隊員は、大きな橙色の旗を両腕を使って大きく上下に振っている。これは、高速道路上を走る一般車両に向けて、速度を落とすよう訴えかける合図であった。
そしてゴブリンリーダー系の隊員より後ろに立つ二名の内、科学者系の隊員は、路肩で何やら半身で構える姿勢を取っている。さらに彼は、道路上を行く自動車の流れに注意を払いながら、時折横へ視線を向けている。
彼の視線の先。道路の上り線と下り線を隔てる、中央分離帯の上の一点。そこに、金属製であろう板のような物が落ちていた。
それは、走行中の一般車両から落ちたと思われる、〝落下物〟だ。
二人の隊員は、この落下物を回収するタイミング見計らっていた。
「いいか血侵(ちしん)、教えた通りだ。視線は後方、全力疾走はするなよ」
構える科学者系の隊員に、横に立つゴブリン系の隊員が、忠告の言葉を発する。
「了解」
ゴブリン系の隊員の言葉に、科学者系の隊員は端的に返す。
《シルバーの普通乗用車の後。途絶えます、行けます》
その時、二人の身に着けるトランシーバーより、声が響き聞こえた。
それは後方で旗を振る、ゴブリンリーダー系の隊員よりの、車の流れが途絶える――すなわち、落下物回収のチャンスが訪れた事を告げる合図だ。
「了解」
科学者系の隊員は、トランシーバーを用いて言葉を返す。
そして無線の発報にあった、シルバーの乗用車が後方に居るゴブリンリーダー系隊員の真横を通り過ぎる様子が見える。
その瞬間――ピーーッ!、と。ゴブリンリーダー系の隊員の方から、甲高い警笛が響き聞こえる。そして、ゴブリンリーダー系の隊員は旗を大きく掲げ、そして走行車線上に飛び出す姿を見せた。
そこからさらに直後、時間差でシルバーの乗用車は、科学者系の隊員等の真横を通り過ぎる。そして科学者系の隊員は、ゴブリンリーダー系の隊員に続くように、車線上へ飛び出した。
一般走行車両が途絶えた僅かな間隙を縫い、本線の横断が敢行されたのだ。
本線上に飛び出した二名は、2~3秒の時間の内に二車線ある本線上を駆け切り、横断を完了。中央分離帯へと飛び込み辿り着いた。
辿り着いた二名は、そこからそれぞれの行動動作に移る。
後方に居る監視要員であるゴブリンリーダー系の隊員は、その場に自分等が居る事を示すべく、旗を持った片腕を掲げ上げる。
そして科学者系の隊員は、先に目視確認した、金属板の元へと向かう。
その間も、すぐ横、追い越し車線を一般走行車両が容赦なく走り抜けてゆく。科学者系の隊員は、装甲車両の来る車線の先へ、常に警戒の向けて保ちながら、慎重に歩み進む。
「――回収ーーッ!」
そして、落ちている金属片の元へと到着。
それを片腕で拾い上げると同時に、先のゴブリンリーダー系の隊員の方向へ向けて、回収完了の旨を告げる声を張り上げた。
「回収、了解!」
先で、同様に中央分離帯に駆け込んでいた、ゴブリンリーダー系の隊員から、張り上げられた声でのが届く。
それを聞きつつ科学者系の隊員は、おそらく落下時の影響であろう軽くひしゃげた金属板を、しかし落とさぬようしっかりと片手の持ち直す。
《――よし血侵、次はそこから戻ってくるんだ。要領は同じ、油断するな》
トランシーバーより、路肩で待つゴブリン系の隊員からの、指示と忠告の言葉が寄越される。
「了解」
それに科学者系の隊員はまた端的に答え、そして車線上のその先へと視線を向ける。
《――次、大貨(大型貨物車両)後!途絶えます!》
「了解」
続き、ゴブリンリーダー系隊員からの、トランシーバー越しの知らせの声が届く。それにも同様に端的に返す、科学者系の隊員。
そして先と同様、知らせにあった大型貨物車両がゴブリンリーダー系の傍を走り抜ける。
瞬間、再び甲高い警笛の音が鳴り響き聞こえ、そしてゴブリンリーダー系の隊員は、再び車線上へと飛び出す姿を見せた。
僅かな時間差で、大型貨物車両は科学者系の隊員の傍を走り抜ける。瞬間、科学者系の隊員は再び、ゴブリンリーダー系の隊員に続くように。しかし今度は回収した落下物をしっかりと手中に持ち、車線上へと飛び出した。
車線上を駆け横断し、二人は路肩へと飛び込み戻る。
「――完了ッ!」
「完了、了解ッ!」
路肩に無事戻ると同時に、科学者系の隊員は回収作業が完了した旨を、ゴブリンリーダー系の隊員に向けて発し上げる。それに呼応し、ゴブリンリーダー系の隊員から了解の声が返された。
ゴブリンリーダー系の隊員はそこから再び、手にした旗を大きく振るい始め、車上を走る一般車両へ、速度を落とすよう訴えかける合図を送り出す。
「よし。悪くなかったぞ、血侵」
一方、落下物を手に無事戻った科学者系の隊員へは、待っていたゴブリン系の隊員から労う言葉が掛けられる。
「後は、収容して離脱だ」
「了解――後方ヨシッ」
続け、それからの動きを促す言葉を掛けたゴブリン系の隊員。
それに科学者系の隊員は端的に返すと、道路後方を指差し指差歓呼を実施。安全を確認した後に身を翻し、先に停まる巡回車へと駆ける。
巡回車へ向けて前へ駆ける最中も、後ろへ背を向け切る事はしない。前へ駆けつつも、半身の姿勢で常に後ろ周囲への警戒を怠らない。
そんな動作で駆けながらも、科学者系の隊員は巡回車の元へと到達。
「後方ヨシ」
巡回車の真後ろで止まり、身を翻して後方の安全を確認。
そして後ろ向き、半身の姿勢で警戒を維持したまま、巡回車の後部ドアに手を伸ばし、ドアを慎重に開放。
露になった巡回車のラゲッジスペースは、カラーコーンや矢印版を始め、各種様々な搭載装備で占められていた。
科学者系の隊員は、そのラゲッジスペース内の僅かな空き空間に、先に回収した金属片――落下物を放り込み、そして後部ドアを慎重に閉じた。
「収容ヨシ。乗車準備ヨシッ」
科学者系の隊員が落下物の収容を行っている間に、作業を監督していたゴブリン系の隊員が。そして後方で監視を行っていたゴブリンリーダー系の隊員が、巡回車の傍まで戻って来ていた。
科学者系の隊員は、巡回車の真後ろで準備姿勢を取り構え、その両者に向けて発し上げ告げる。
「了解――ヨシッ!」
ゴブリンリーダー系の隊員は、発し上げられた声に返答。そして本線上を行く車が途絶えている事を確認し、旗を掲げて合図の声を上げた。
「確認――乗車ッ」
合図を聞きつつ、科学者系の隊員は自身もその目で、安全を確認。そして直後、発すると同時に片足を軸に身を90度捻った。
科学者系の隊員はそのまま巡回車の車体側面に自身の身体を這わせ、運転席ドアまで移動。再び一度、車線上の一般車両の有無を確認した後に、運転席側ドアを最低限だけ開き、すかさず巡回車の運転席へと乗り込んだ。
乗り込みシートに座した科学者系の隊員は、シートベルトを締め、それからギアをパーキングからドライブへ入れる。サイドブレーキを解除する。万一の追突に備え、左に切っていたハンドルを戻す、等。各所動作を行ってゆく科学者系の隊員。これらは全てこれよりの、この場からの発進離脱に向けた物だ。
科学者系の隊員が発進に向けた動作を行っている間に、巡回車左側の、助手席側ドアと後席ドアがそれぞれ開かれる。
そして監督を行っていたゴブリン系の隊員と、監視に付いていたゴブリンリーダー系の隊員が、それぞれ戻り乗り込んで来た。両者はそれぞれシートに座して、同様にシートベルトを締める。
「ヨーシ、最後にここから離脱だ。準備はいいか?」
「ギア、サイドブレーキ解除、ハンドル戻し、ヨシ。準備ヨシです」
後席に座したゴブリン系の隊員から、運転席に向けて確認の声が飛んでくる。
科学者系の隊員は、それに端的に言葉を返す。
「――黒の乗用後。途絶えます」
助手席に付いたゴブリンリーダー系の隊員は、シート上で上半身を大きく捻り、窓ガラス越しに後方へ視線を向け、本線上の監視確認を行っている。
そしてゴブリンリーダー系の隊員の口から、車の流れが途絶えるタイミングが告げられた。
「黒後、確認――出ます」
科学者系の隊員もサイドミラーを利用して、本線上を視認。後方に見える黒色の普通乗用車を最後に、車の流れが一度途絶えるであろう事を確認する。
そして、路肩より本線上への合流復帰に備え、前席中央部の各種操作計に指先を伸ばし、点灯させていたハザードを切り、ウィンカーを右へ出す。
それから、足元のブレーキペダルを離してアクセルペダルを踏み、巡回車を発進させた。
最徐行で路肩上を進み始めた巡回車は、科学者系の隊員の操縦により、慎重に、だが確実に速度を上げてゆく。
その巡回車の真横を、先に確認した黒色の普通乗用車が追い抜き通過していったのは、その瞬間であった。
「はい黒通過、後方クリアーッ」
乗用車が通過し、車線上後方に通行車が無くなった瞬間、後方の監視確認を行っていたゴブリンリーダー系の隊員から、その旨が発し告げられる。
「了解、合流開始」
それを受けた科学者系の隊員はそれに返答。そして同時に、いや発するより早いかのタイミングで、アクセルペダルを大きく踏み込んだ。
その操作に呼応し、巡回車はエンジンを吹かして急加速を開始。路肩上で巡回車はぐんぐんと速度を上げ、数秒後には本線上の最低制限速度を越える。
そのタイミングで、科学者系の隊員はハンドルを緩やかに右へと切った。
操作が反映されて巡回車のタイヤも微かに切られ、巡回車は浅い斜めの軌道を描いて、本線上へと乗り、合流する。
「さらに後方ヨシ」
助手席で後方監視を続けるゴブリンリーダー系の隊員からは、さらに続けて、本線上後方に問題が無い旨が発し寄越される。
それを聞きつつ、科学者系の隊員は緩やかに切っていたハンドルを静かに戻し始め、巡回車の進路を本線上の走行車線上で安定させる。そして速度を本線上の最高制限速度に合わせる。
「――完了」
その全てが完了し、本線への合流が無事終わると同時に、出していたウィンカーを切って、完了を告げる言葉を端的に発し上げた。
以上。巡回車の現場からの離脱をもって、基幹道路本線上における、落下物回収作業は完了した――
無事、基幹道路本線上の落下物を回収し、交通管理隊隊員等を乗せた巡回車は、巡回へと復帰した。
「上出来だ。よくやったな、〝血侵(ちしん)〟」
その巡回車の車内。
多種多様な機材器具で占められた後席からラゲッジスペースまでの空間。そこになんとか開けた後席左シートに座す、ゴブリン系の隊員から、運転席でハンドルを預かる科学者系の隊員に、称す言葉が飛ぶ。
そして同時に紡がれた、〝血侵〟という名。それは、科学者系の隊員の名であった。
――科学者系の隊員は、本名を〝算荼羅(ざんだら) 征上(とうえ) 血侵(ちしん)〟と言う。
肌や髪色は、東洋系である事を示している。
顔の造形は掘りと皺がやや多く、眼は陰湿そうな第一印象を与える。正直、人に好感を与えるとは言い難い容姿顔立ちをしていた。
年齢は32歳とそれなり。しかし反して彼は、一月程前に交通管理隊隊員となったばかりの、新隊員であった。
そして今現在は、本来二名一組で行われる交通管理隊の巡回業務に、同伴して実地研修を受けている最中なのであった。
「えぇ、どうも」
その科学者系の隊員――改め血侵は、ゴブリン系の隊員の称する言葉に、しかし端的に返す。
「だが、今のは最もシンプルなケースだ。今後、もっと厄介な現場は嫌と言う程出て来るぞ」
そのゴブリン系の隊員は、しかし称する言葉に続いて、忠告の言葉を紡いだ。
ゴブリン系の隊員――本名を〝セトビス S・L・V・Z〟と言う彼は、この道20年以上のベテラン交通管理隊隊員だ。
主任の階級と班長の肩書を持ち、今この場では、巡回の長。責任者を務めている。
そして同時に、血侵の研修教育を監督していた。
「心しておきます」
そのセトビスの忠告の言葉に、血侵はまた端的に返した。
「――高速ハーバーノース4から、ストーンゼルコヴァ本部」
その会話が区切れたタイミングで、血侵の隣。助手席から別の声が聞こえ来る。
声の主は助手席側に座す、ゴブリンリーダー系の〝女〟隊員――本名を、〝ヘキサ ZLS ユレネンナカン〟という彼女。血侵より一年早く入社した、しかし20代前半の年齢である、血侵より年下の先輩隊員であった。
その彼女は、運転席シートと助手席シートの間に設置された無線機より、受話器を取って引き、口元に寄せている。
《――ゼルコヴァです。高速ハーバーノース4、どうぞ》
その無線機から、先のヘキサの呼びかけに対する、返答の声が流れ聞こえ来た。
それは、血侵等の現在地よりはるか遠方に所在する、基幹道路の管理監視及び統制を司る、本部――道路管制センターから返された物であった。
「障害物排除。デュアル上り、17.2――中分から、金属板。40crw×30crwサイズの物、一枚排除完了。どうぞ」
管制センターからの返答を聞いたヘキサは、そこから言葉を連ね発する。
それは先に回収した落下物の発見場所、落下物その物の大きさ等、落下物の情報を。そして、その落下物の排除回収が完了した事を報告する物だ。
補足すれば、高速ハーバーノース4は、今血侵等が乗る巡回車に。ストーンゼルコヴァ本部は、本部管制センターに割り当てられた無線識別だ。
《デュアル上り17.2から金属片一枚排除――了解です、どうぞ》
無線機の向こうの管制センターからは、ヘキサの文言と比較して少し崩れ省略された言葉で、落下物情報が復唱。そして了解の言葉が返ってくる。
「以上、高速ハーバーノース4」
本部より了解の言葉を聞いたヘキサは、そこで通信を終わりとする締めくくりの言葉を紡ぐ。原則として、呼び出した側から通信を終えるのが決まりとなっている。そしてヘキサは、受話器に備わる通信終了ボタンを押して、受話器を無線機本体の元へと戻し置いた。
「――よいしょ」
無線による本部への報告を終えたヘキサは、そこから息つく間もなく、さらなる行動に移る。彼女はグローブボックスに腕を伸ばし、ゴブリンやゴブリンリーダー系特有の荒く尖った手先で、そこに置かれていたノート状のタブレット端末を取って寄せる。それは巡回の詳細を記録するために用いられている、レコードタブレットだ。こういった記録も業務の一環であり、そして巡回中はその役割を、第2乗務員と名称される助手席要員が担う。なお、運転操縦を担当する隊員は、第1乗務員と名称される。
「上り17.2――鉄類――」
ヘキサは先の回収落下物の関連情報を小さく呟きながら、その尖った指でレコードタブレットを打ち、情報を入力してゆく。
急かしく動く彼女の気配を隣に感じつつ、血侵は運転操縦への意識を優先する。
先の回収は無事終わったが、これ以降、別の事象が無い保証はどこにも無い。いつまた新たな事象、基幹道路上で発見されるかは分からないのだ。
「基地まであと少しだが、油断はするなよ。頑張るんだ」
後席のセトビスからも、その事を忠告する言葉が飛ぶ。
「了解」
それに、またも端的に答える血侵。
そして血侵は引き続き巡回車を操り、残る巡回行程の完遂に、意識を向けた。
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