第17話

▫︎◇▫︎


 この国には昔、難聴の貴き妃がいた。


 その妃は純白の美しい髪に、氷のような透き通った水色の瞳を持っていたらしい。

 大変に美しい容姿で、誰もが惚れ惚れとしていたが、その妃に対して男性は誰もその妃の美しさを褒め称えなかったらしい。

 何故なら、妃の夫は大変嫉妬深く、心の奥底から妃のことを愛しすぎていたからだ。


 妃の夫はかつてこの地にあった国の王弟であったらしい。黄金の髪にルビーのような真っ赤な瞳を持つ夫は、妃に遜色することがない程に大変麗しく、それでいて文武両道であり、沢山の女性に言い寄られたという記述を残している。

 けれど、夫である王はどんな美女に言い寄られても、一切靡かなかったそうだ。それどころか、妃を陥れてその座に成り代わろうと画策した人間には、未遂か否かに関わらず、手酷い罰を与えたらしい。


 妃と王は、かつてこの地にあった王国の貴族たちによる暴挙によって大飢饉が起きた際、公爵という地位をフルに活用して国民のために尽くしたそうだ。

 先代の公爵と違い、平民に寄り添う姿勢を大事にしていた妃と王は、平民に対するあまりの仕打ちに怒り、悲しみ、そして行動を起こしたそうだ。


 王は贅を尽くすことにしか興味がない傀儡の兄王と兄王を傀儡にしていた妃の父を討ち取り、この国『ルミ王国』を建国したそうだ。

 初代国王オリオンはこの国の平和のために尽力し、妃であるネージュは難聴でありながらもそれゆえに優れている視力や洞察力で国の発展に貢献したらしい。


 国王夫婦は仲が良いことで有名で子宝に恵まれ、4人もの子供を立派に育て上げた。


 長女は2代目の王として賢王と名高い女王となり、

 長男は妃ネージュの実家アクアマリン公爵家の跡を継いだ。

 次男は宰相として女王を陰日向から的確に支え、

 次女は最強の騎士団長として王国の守りに生涯を捧げた。


 全員とても優秀で、全員が歴史に名を残した。


 けれどやっぱり、この国で最も有名なのは国王オリオンと妃ネージュであり、それは不変である。

 この国を立ち上げ、国民全てを愛し続けた国王夫婦は、この国の誉であり永遠の光である。


 仲が良い国王夫婦は、早いうちに沢山の人に惜しまれながら王位を退き、余生は自然の多い場所でお互いを気遣い、慈しみながら過ごしたらしい。


 毎日恋文をしたため続けたという逸話を持つ国王夫婦にちなんで、雪の王国という意味を持つルミ王国では、恋人と交換をしながら恋文をつづる魔法の本が名産品となっている。


 真実を知る者はもう誰も生きていない。

 けれど、この逸話は本当にあったことなのではないかと伝えられている。


 何故なら、同時期に同じ寝台で手を繋いで亡くなった国王夫婦のお墓の中央には時代を感じさせることがない対になる美しい魔法の本が2冊飾られているからだ。

 誰も開けることができない高度な魔法がかけられた本は、長い長い時を得てもなお誰1人として開けられない。

 けれど、その本の側には国王夫婦が書き記したであろう時代を感じる古い紙が添えられているらしい。

 その紙には丁寧な字で3行に分けて、2人分の文字が綴られているらしい。


〜〜〜


 ネージュ、僕の雪の精霊。君のことを永遠に愛している。

 オリオン、私の太陽。あなたのことを永遠に愛しているわ。

 愛おしい人に、愛しているよりも愛を届けたい。


〜〜〜


 お互いを愛し続けた国王夫婦は、いつ何時も愛を大事にしていたらしい。


 虹の先の世界で一緒に暮らしているであろう妃の音は取り戻されただろうか、王の身体に残っていた傷跡は消えただろうか。


 虹の先の世界でも愛は永遠であることを信じてーーー。

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