腐りかけのチーズ【新連載】

Blue Jacket

第1話 チーズのない食事

「人間において大切なのは内面だ。見た目は関係ない。」という言葉は間違っている。


完全に間違い、というわけではないけど、順序が違う。


見た目が整っている人間はやはり印象がいい。


見た目が整っているからこそ、中身を見てもらえる。

見た目が美しい人は、たいてい心も美しい。


その選ばれた人たちの中で中身を見るわけだから、人間に大切なのは外見だ。


だから、「大切なのは内面」なんて馬鹿げている。

こんなことを言えるのは美しい人々だ。


醜い私は今までどんな扱いを受けてきたことか。


街では子供に指をさされ、学校では同級生に避けられ、大人には哀れに思われる。

本当に醜い人間は自分が生まれてきたことを後悔する。


だから、心も荒む。


私もできることなら、美女に生まれたかった。


私だって心は立派な女だ。


美しくなりたい。


でも無理だろう。


じゃ。


私は駅の階段を上り、学校へ向かおうとした。

少し混んではいたけど、不快なほどじゃない。


「痛っ」


私は誰かに靴を踏まれた。


「すみません。」


私と同じ、女だった。


「ちょっと、どこ見て歩いてるのよ。」


私は彼女に怒鳴った。

胸いっぱいの憎悪を込めて。


誰にでも靴を踏んでしまうことくらいはある。

そんなことくらい、私にもわかる。


それでも私は彼女を許せなかった。



だってこんなにも



彼女は「清楚」という言葉そのものだった。


さらりとなびく艶のある黒髪、透明みたいに美しい肌、同じ人間とは思えないほどに整った顔立ち、それでいて文句なしのスタイル。


彼女が憎い。


私が彼女の容姿をもって生まれてきたら、いったいどんな輝かしい日々が待っていたんだろう。


でも彼女の目は光がなかった。


瞳に、ではない。眼球がないのだ。

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