古代の剣魔女は亡国の調べに舞い、現世の軍勢を狩る ~国家存亡の危機に蘇った私の先祖が神代最強の英雄にして途轍もない戦争狂いなロリババアの魔女なんですけど~

第616特別情報大隊

昔、昔……

……………………


 ──昔、昔……



「私が聞いた昔、とても昔の話です」


 真っすぐで絹糸のような白い髪を長く伸ばした12歳ほどの少女が語る。


「私たちのずっとずっと前の時代。まだ神様たちが地上にいて、神様たち同士で争っていた時代。その時代に私たちの祖先が生まれた。お婆様よりも前、そのまたお婆様よりも前。ずっとずっと前のお婆様」


 月は赤く不気味に輝き、その明かりが格子戸から差す。


「彼女は戦火の中で生まれ、鉄の嵐の中で育ち、死んだ戦士たちの血と肉で飢えと渇きを満たし、苦痛にのたうつ怪我人の悲鳴を子守歌に眠り、死にゆくものたちの呪いの言葉で祝福され、親ではなく鋼の剣に愛された」


 白い髪の少女が顔を上げる。


 額に出来た裂傷から血が流れ、白い肌を真っ赤な血が滑るように落ちていく。少女の目はその血のように赤かった。


「彼女は戦争だけを望んだ。神々のしもべたる巨人たちを殺し、暗闇から現れた吸血鬼たちを殺し、兵器として生み出された人狼たちを殺し、神になろうとしたドラゴンたちを殺し、そして神様すらも殺した」


 外から怒号が聞こえる。兵士たちの立てる軍靴の音が聞こえる。将校たちの命令が聞こえる。戦争の音が聞こえる。


「私たちに宿っているのはそんなお婆様の血。決して目覚めさせてはいけない血。お母さまはいつも言っていた。『聞きなさい、マリー。本当に恐ろしい怪物は城壁の外ではなく、城壁の中で眠っているの』と」


 少女の赤い瞳がその少女に瓜二つの姿をした少女に向けられる。


 不気味な笑みを浮かべた少女。


 鋭い犬歯を覗かせ、爬虫類のように細い瞳孔が血の色に輝くその瞳を細め、死人のように青ざめた唇を歪めている。


 古い、とても古い時代の真っ黒な軍服を纏い、革の軍靴を履いていた。まだ世界を銃ではなく、剣と弓が支配していた時代の軍服だ。


「それで?」


 軍服の少女が嘲るような視線を物語を語った少女に向けて尋ねる。


「あなたがそうなのでしょう、“お婆様”? そう私たちの始祖──“血塗れの剣魔女”初代ブルーティヒラント女公セラフィーネ」


……………………

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