侍ババアと道産子ギャル~エクソシストを添えて~
膝毛
第1話 激ヤバ!五稜郭大結界決戦1
とあるSNSのトークルーム
かなみー「ねぇ? 侍ババアって知ってる?」
とーこ「何それ? 新しいB級ホラー映画?」
かなみー「違う違う、最近ここら辺で噂になってる都市伝説」
とーこ「また都市伝説……? 先週はデスメタル和尚、先々週はライトニング花子ときて今度は侍ババアって……ちなみにどんな噂なの?」
かなみー「なんか深夜に出歩くと、日本刀を持ったババアが現れて『こんな深夜にほっつき歩くんじゃないよ! さっさと家帰って寝な! クソガキ!』って刀振り回して叱ってくるらしい!」
とーこ「……それ都市伝説っていうかただの不審者じゃない?」
かなみー「言われてみれば確かにw あ、でも侍ババアの話には続きがあって……」
とーこ「ごめん、これからバイトだからその話はまた後で聞くわ」
かなみー「えー、ここからがいいとこなのに……昨日もバイトって言ってスイパラ行かなかったじゃん」
とーこ「今月分の食費頑張って貯めなきゃいけないの。じゃあ後で」
かなみー「ういー。頑張ってー」
~北海道函館市 五稜郭町~
ジャラジャラと多数のキーホルダーをつけたカバンを持った、ワイシャツ・カーディガンにミニスカートの高校生と思わしき少女は、手に持っていた携帯の電源を切りポケットにしまう。彼女の髪は綺麗な長い金髪で、遠目からでも丁寧に手入れされていることが分かる。整った顔立ちに今風のナチュラルメイク、爪には独特な模様のマニュキアがつけられている。そんな一目でギャルと分かる風体の彼女は、大きく「五稜郭跡」と彫られた石碑の前に立っていた。そこは函館市の観光スポットとして有名な五稜郭の入口であった。周囲は深い堀に囲まれており、彼女のすぐ後ろには橋がかかっている。
「討子さん、そろそろいいっスか?」
少女の後ろに控えていたスーツの男が問いかけてくる。
「ん、大丈夫。ちょっと不審者の噂話していただけ」
「?」
スーツの男は彼女が何を言っているのか分からず首をかしげる。討子と呼ばれた少女はそんな彼の様子を無視して話しかける。
「で、今日のターゲットは?」
「あーはい。えっと……今日はCランクの低級幽霊の駆除っすね」
「こんな肌寒い中、わざわざ来たのにまた雑魚幽霊の相手なの? これじゃ全然稼げないじゃん」
討子は文句ありげにそう言うが、スーツの男はスマホをいじりながら気だるそうに答える。
「仕方ないっすよ。討子さんまだエクソシストとしては新人ですし、最初はこれくらいじゃないと」
「あーしは天才だから大丈夫だって。はぁ……仕方ない、大した金にもならなそうだし、さっさと除霊してくるか」
「あー、油断しないで下さいね。なんか報告によると……ってもういないし……」
スーツ姿の男が顔を上げると、討子は五稜郭へ繋がる橋まで走り去っていった。小さくなっていく後姿を見てため息をつくと、男は再び携帯をいじり始める。
「このまま何かあったら俺の責任になるよなぁ……はぁ……面倒くさ……」
五稜郭に着いた討子は、砂利道を走りながらキョロキョロ周囲を見渡す。彼女の周囲にはたくさんの桜の木が植えられており、夜風によって飛ばされた花びらが、外灯に照らされながらひらひらと舞う様子は見る者に風情さを感じさせる。しかし討子は桜を一切気にせず、まるで恐喝するかのようなドスの聞いた声で叫ぶ。
「おーい、聞こえてるんでしょクソ雑魚幽霊! 死んだ後もグダグダ人様に迷惑かけるクソ陰キャ共が! さっさと出てきてあーしに除霊されなさいよ!」
封鎖され誰もいない五稜郭に討子の声が響き渡る。もちろん応じる人はいない。だが、人ではないものがその声に応えた。
「アァ…………ァァ…………」
妙なうめき声と共にどこからともなく現れた大量の青白い炎のようなモノが討子の周りを囲む。そしてその炎は徐々に人の形をとり始め、ゆっくりと討子に近づいていく。青白い半透明の身体というまさしくホラー映画の幽霊そのものだったが、特徴を挙げるとするなら彼らは皆、学ランのような軍服を着ており、その腰には剣や銃をぶら下げている。30体以上の幽霊に囲まれながらも、彼女に一切の焦りは見られない。
「ったく……函館戦争から何年経ったと思ってるの……そんなダサカッコでいつまでも未練たらしく現世に残ってるんじゃないわよ。……ま、アンタらのおかげでアタシも金が稼げるんだけどね」
討子がそう言うと同時に彼女の手、正確には指の爪に施された独特な紋様のネイルが光り始める。その光は徐々に収束していき、最終的には彼女の手から5本の巨大な光の爪が伸びていた。それを見た兵士の恰好をした幽霊たちは彼女に近づくのをやめ、ゆっくりと後ずさりしていく。思考能力がなさそうな彼らでも、あの光の爪が自分たちの脅威であることは本能的に察知したようだ。だが討子はそれを許さなかった。
「逃がすかよ! 金ヅル!」
討子は走って幽霊に近づくと、その巨大な光の爪を振るう。
「ギャァァァァ!」
爪によって引き裂かれた幽霊は悲痛な叫び声と共に、そのままその姿を消した。
「まずは一匹」
討子はすぐさま別の幽霊をターゲットにして走り出すと、幽霊たちは慌てた様子で逃げようとする。しかし、彼女はそれを許さない。すぐさま追いつき次々と光の爪で幽霊たちを切り裂いていった。
「こいつら全員やれば2~3万くらいにはなるかな……っと」
討子はそんなことをブツブツと言いながら、淡々と幽霊を退治していく。中には応戦しようと腰の剣を手に取って攻撃しようとするものもいたが、討子はそれをヒョイとかわしてすぐさまその爪で反撃する。討子の動きが速いこともあってか、幽霊たちの数はどんどん減っていき、しまいには彼女の周りから幽霊たちは消え去っていた。
「……ん? あれ……? 最初はもっといたはずなのに……」
だが、そのあまりのあっけなさに討子は違和感を感じた。いったん動きを止めて周りを見渡す。頭の中で金勘定をして集中していなかったとはいえ、最初に見た幽霊の数と倒した数が合わない。
「全部除霊した……? いや、まだあと20体くらいはいたはず……一体どこに……」
討子が考え込んでいると、目の端に青白い光のようなものを捉えた。その方向を見ると外れにある木々の奥で次々と青く光っては消え、光っては消え……と何かが起こっているのがわかった。討子の頬に嫌な汗が流れる。
「あれ、ちょっと……嫌な予感……」
その予感は見事に的中していた。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!」
とてつもない咆哮と共に、巨大な青白い幽霊が姿を現した。上半身しかないようだが、その大きさはちょっとしたビルと同じくらいあり、その握った拳は討子よりも大きかった。もし直撃すればひとたまりもないだろう。
「あー……合体とかしちゃう系ね、こんだけ大きかったらB級くらいあるんじゃない……待てよ……もしコイツ倒せればボーナスとか出る系? ……よし!」
しかし彼女は自分の身の安全よりもボーナスを優先し、ダッシュで巨大幽霊にに近づいていく。対する幽霊もその巨大な拳を討子に向かって放つ。普通であれば恐怖で足がすくむところであろうが、彼女の頭の中には金のことしかないからか、足を止めることなく進んでいく。そして拳が討子に直撃するかと思われたその瞬間、
ピカッ!
彼女の持っているスマホから凄まじい光が放たれ、目がくらんだのか幽霊はのけ反り、その拳が討子に当たることはなかった。
「ヤバイっしょ、特性のピカ☆ピカ☆カメラ。アンタらみたいな幽霊にもキクようにスマホ改造したんよ。んじゃ、これでも喰らって!」
幽霊がひるんでいる間に懐に潜り込んだ討子は、光の爪でそのわき腹を切り裂いた。
「どうよ☆ ってアレ?」
しかし、幽霊のサイズが大きすぎたためか大したダメージになっておらず、せっかくつけた傷はすぐさま回復されてしまった。
「もしかして……ヤバイ系?」
次の瞬間、目が見えず暴れていた幽霊の拳が討子の身体にかすった。
ドシャアア!
「ぐはっ……」
かすっただけでも討子の身体は数メートル吹き飛ばされ、離れた場所にあったベンチに叩きつけられた。もし拳が直撃していれば彼女の身体は粉々になっていただろう。
「マジ……か……」
暗くなる視界の先で、視力が回復した巨大幽霊がゆっくりとこちらに近づいてくるのが分かる。初めて彼女は自分の身に明確な死が近づいていることを自覚した。
「ありえ……ねー……まだあーしやりたいこといっぱいあるのに……こんなとこで……死んで……らんないんだけど……」
必死で身体を動かそうとするも、痛みと衝撃でうまく呼吸がとれず、身体をピクリとも動かすことができない。彼女の目は決して諦めてはいなかったが、無情にも幽霊の巨大な拳が振り上げられる。
「チッ……これなら……やっぱスイパラ行っとけばよかった……ん……?」
巨大幽霊を見上げる形で睨みつけていた討子はその時、何かに気付いた。幽霊のさらに上方、月夜が映える夜空に人影のようなモノが見える。討子は死の直前に見える幻覚かと思ったが、そうではないことがすぐに分かった。
「クソ幽霊がぁ!! もういっぺん死にやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
野獣かと思うほど凄まじい雄叫びを放ちながら、その人影は空中から落下してきた。その手には刀が握られており、切っ先は巨大幽霊に向かっている。幽霊も気付いたようだがもう遅い、刃はすでにその体に食い込んでいた。
「グオオオオオオオオオオオオオオ…………ォォォ……」
一閃、討子の頭の中にこの一言が思い浮かんだ。一瞬の間に文字通り幽霊は真っ二つに切り裂かれ、徐々にその形を崩していく。巨大幽霊の討伐をやってのけたその人物はゆっくりと立ち上がり、呆然とする討子に気付き振り返る。青白い炎に照らされて、討子はようやくその姿を視認することができた。そこには桜舞う中、鋭く煌めく刀を持ったエプロン姿で白髪交じりの女性が立っていた。そしてその初老の女性は討子を視認するなり、怒鳴り声を上げる。
「チッ……こんな深夜にほっつき歩くんじゃないよ! さっさと家帰って寝な! クソガキ!」
一瞬きょとんとした討子であったが、すぐさま中指を立てて言い返す。
「………………あ? てめぇこそ夜中に徘徊してんじゃねぇよ、痴呆か? クソババア!」
都市伝説や噂話ではなく、B級映画も真っ青なババアがそこにいた。
この物語は過去に縛られた侍ババアと未来を夢見る道産子ギャルの奇妙な友情を描いた物語である。
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