神速の第二人種
真那司優
第1話
2037年3月31日午後10時、
一人は三十代半ば、スーツ姿のその男は額の汗をハンカチで拭いながら黒縁の眼鏡を整え、一息ついた後に緊張した面持ちで話しかけた。
「支払いの件だが、もう少し待って欲しい」
もう一人の男は黒のロングコートに全身を包み、その上フードを被っているため顔はよく見えないが、その独特の雰囲気と威圧感は空気を通して犇犇と伝わってくる。
「……」
フードの男は無言のまま少し俯きため息を吐くと、一歩前に踏み出し距離を詰めてくる。
「ら、来月にはまとまったお金が入る。そうすれば、今までの分も含めて倍は払うと約束する。だから……」
スーツの男の話を遮るように、右手をゆっくりと前に突き出し地面に向けて手を開く。
その意味が解らず差し出された右手を凝視していると、一瞬手の平が光り輝いたかと思えばいつの間にかその手には剣の柄のようなものが握られていた。
「えっ、今どうやって?」
その問に答える間も無く柄の先から光の粒子が集まり諸刃の形を成すと同時に、一目で危険とわかるほどの高圧電流がけたたましい音を立てながら刃の周辺に帯びていた。
「ひっ」
一瞬の出来事に驚き小さな悲鳴を上げた後、尻餅をついた。目先の現実離れした出来事に恐怖し腰が抜けてしまう。必死に逃げ道を探りながら這うように後退りするが、壁際まで追い詰められた。
「待て、待ってくれ。金は必ず払う。本当だ。 嘘じゃない!」
こちらの静止を聞かず一歩また一歩と凶器を持ったまま近づいてくる。雲の隙間から月が顔を出し、月光が廃墟ビルの天井から差し込み、その男の口元が照らされる。薄笑いを浮かべた
その口から今夜出会って初めて血も凍るような低い声が発せられた。
「ボスからの伝言だ。期限や約束を守れない奴に用はない」
そう冷たく言い放った後、男は刃を相手の心臓に目掛けて突き刺した。
「があああ、た、助け……」
歪な叫び声と放たれた電流の音が鳴り響き次第に薄れていく。数秒後、苦悶に満ちた顔をした男の体から力が抜けるとそのまま地面に倒れ込んだ。
翌朝、不審な音を聞いたという妻の証言を聞き、渋々見回りに来た近所に住むこの廃墟ビル
の管理人が遺体を発見し、絶叫しながらも警察に通報するのにそう時間はかからなかった。
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