第一話

 「茜さんは、広報担当として勤務していただきます。仕事内容は主にイベントやSNSですね。有隣堂のYouTubeはご覧になったことありますか? 」

広報か、と少し嬉しくなる。書店の仕事と言えば本を陳列するだけかと思っていた。有隣堂のYouTubeは見たことがないが、私みたいな可愛い女の子が出れば人気間違いなしだ。

「すみません、YouTubeは見たことがないです。でも私、インスタの運営とかはできます。YouTubeに出演するのも楽しみです!」

精一杯のぶりっ子をして言う。教育担当の社員さんは少し困った顔になった。

「そうですね、茜さんにやっていただきたいのは、ブッコローというキャラクターの中の人なんです。中の人と言っても、着ぐるみじゃないので声だけですが」

どうやら、YouTubeで喋る公式マスコットの人形の声をやらされるらしい。

 

 ブッコローと対面したのは、それから一時間後のことだ。ミミズク?のぬいぐるみで、大きめのリュックくらいの大きさがある。名前から少々察しはついていたが、私のような可愛い女の子が担当するには野暮ったい代物だった。友達に自慢もできない。なんだだこの目は。らりってるじゃないか。

「へえ、これですか.....。なんかすごい顔ですね。なんでまた私が担当に? 」

さりげなく敗因を聞いてみると、教育担当はニコニコしながら答えてくれた。

「茜さんがですね、一番コミュニケーション能力が高いという声が多かったんですよ。面接でも、ニコニコ答えてくれていたそうで」

当たり前だ。面接なんだから。そんなんで中の人をやらされるんなら、新卒の90%はブッコローだろう。釈然としないまま、まあ特に理由なんてないのだろう、という考えに落ち着いた。

「わが社の顔ですから、よろしくお願いします。.....あ、呼び出しだ。少し待っててください」

教育担当は私にブッコローを押し付けて行ってしまった。ブッコローを抱いたまま立ち尽くしていた私は、特にやることもないので、ブッコローの耳を引っ張ったり、目を触ったりして遊んでいた。意外と触り心地は良い。なんだかブッコローがかわいそうになってきたが.....。可愛い女の子が中の人になってやるんだ、これくらい許されるだろ!

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