ゆーりんちー(一部、薄い能力者を含む)

@tukagashira

第1話 拾い物

 もうだめだ。もう飽きた。毎日惰性で朝起きて仕事に出かける。ただそれだけ。その繰り返し。もううんざり。どうしてこうなっちゃったんだろう。楽しいこと何もないし、何のために生きてるんだろうなーって。

 考えてもどうしようもないことを考え続けて、私は派遣バイトの帰り道、駅のホームに立っていた。


 いつもの駅、いつもの時間、ホームにいつもの電車が入ってくる。通勤帰りのいつものラッシュ、人の波、いつもの光景、黒っぽい服装の人の波に押されて私はぼーっと考える。もしここで一歩踏み出せば、線路にうっかり落ちちゃったら、私のこんなつまんない人生も終わるのかなあって。

 私はフラフラと吸い寄せられるようにホームの白線の側へ踏み出して行った。足元の真下の暗い線路に目が吸い寄せられた。


「あの、落ちましたよ。」

「えっ、私ですか」

私の後ろに立っている男性が右手にオレンジ色の丸いマスコットを持っていた。

「あの、私のじゃありません。」

「いや、あなたのバックから落ちるのを見たんで。お渡ししますよ。」

「でも、本当に私のじゃないんですけど。」

 私は慌てて否定したのに、男性はこれ以上会話を続けたくなかったのか厄介払いしたかったのか、私にマスコットを押し付けるように渡した。


「じゃあ、あなたのじゃないなら、落とし物、届けてもらえます?」

 私の返事を待たずにその男性はどんどん行ってしまった。私は押し付けられたマスコットをもって呆然と立ち尽くした。

 なんだって私はこんなについてないんだろう。余計なことを押し付けられて、また面倒が増えてしまった。いつも損な役回りばかりまわってくる。

 

 私はため息をついて駅のホームを見渡した。

 いつもの時間の電車は諦めて、長いホームを落とし物を預かってくれそうな場所を探してウロウロする羽目になってしまった。

 人混みを掻き分けてようやく探し当てた駅員の部屋には誰もいなかった。しばらく待ってみたけれど誰も来そうもないので私は仕方なく帰ることにした。右手に変なオレンジ色のマスコットを持って。


 なんだろうこれ。可愛いとは言えない感じ。私はアニメ、ゲームに興味ないからキャラクターだとしても分からないし。これ、右と左の目が変な方向向いてるから、不良品かも。こんな落し物、家へ持って帰るのもなんだか気味が悪い。マスコットの中にGPSとか録音機器とか仕込まれていたら怖いかも。

 私は仕事の疲れと、わけのわからないものを押し付けられた疲れでフラフラとホームに戻り、家に帰る電車を待った。

 

 いつもより2本ぐらい遅い時間の電車に乗ったせいかちょっと車内の雰囲気が違って感じられた。私はまたさらに自分だけはぐれたような孤立しているような、そんな気分を味わった。


 マスコットを手に持ったままだと変だし、でもバックの中に入れるのも気味が悪いから、とりあえずバックの持ち手にぶら下げてみた。捨てるに捨てられず、やむなく。私らしくない。疲れて思考能力が低下しているのかも。明日あの駅に戻ったらマスコットどうにかしよう。

 ぼんやりとしたとりとめのない思考の合間、電車のガタンという揺れと共に、私の頭の中に突然強烈なビジョンが閃いた。


何⁉︎


 オレンジ色のマスコットをバックやリュックに付けた人々が日本中に点在している。スマホの地図で見るような俯瞰図の中に小さなオレンジの光があちこちで光っている。

 

 え、何、この映像!私の頭の中、どっから出てきた?何だか強制的に頭の中に送られてきた、見せられたという感覚。テレビ画像のように鮮明で強烈だった。

 ダメだ、私、疲れてる。もう病院レベルかも。


 特殊能力なんて、!!私が欲しいのはお金と安定した仕事。もううんざりだよ。

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