ブッコローが転生したら紙の上だった。
@wamona
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「お疲れ様でしたー」
一人の男が色々な人とにこやかに挨拶を交わし、ビルから出て来る。
早くしないと終電が行ってしまう。少々焦った男が駆け足になったその時、どこから現れたのか大型トラックがすでに鼻の先にあって、男の視界は黒一色に塗りつぶされた。
◆◆◆
「はっ」
男が目を覚ますと視界には白い……白い紙?
「ここはどこ、私は」
体を起こし手のひらを見下ろしたが、そこには肌色ではなく茶色の楕円形、右脇と思われる場所には本を抱えている。
「ブッコローじゃん!」
そう、You Tubeチャンネル『有隣堂しか知らない世界』でミミズクのマスコット、ブッコローの中の人としてメインMCをしている男が、その本体に乗り移ってしまっていた。
だがこの男、ちょっとやそっとの事では驚かない。すぐに状況を理解した。
「この展開が転生か。しかもこの体いつものぬいぐるみじゃない、紙に描かれた絵なんだよな。と言う事は……ぬまのうさーん!」
ブッコローが大声で呼ぶと、ポンッと書店員の格好をした女性が可愛いイラストで現れた。
「ここは絵本の世界ですか?」
「そうみたいですね。二次元の世界に来られるなんて、感動です」
絵本作家としてデビューするために書店員になった女は、さっそく空いたスペースにソファとテーブル、コーヒーとクッキーを描くとブッコローにもどうぞと勧めた。
「わぁ〜絵の中なのにクッキーが美味しい……って言ってる場合じゃないんですよ! 現実に戻るには何をすれば良いですかね」
テーブルの上に花瓶を、その上に赤いバラを咲かせた、ではなく描いた沼能さんは小首を傾げつつ口を開いた。
「私も転生ものは詳しくなくて。でも絵本ならおつかいに行くのが王道ですかねぇ……ここにタンスを描いても良いですか?」
ブッコローの返事を待たず、筆を走らせる沼能さんに若干引きつつブッコローは考えた。
「赤ずきんパターンか。まぁそれでやってみましょう。じゃあ有隣堂と言えばやっぱり岡﨑さんなんで、ザキさんへのプレゼントを買いに行きます。なので沼能さんは先に行って背景を描いておいてください」
「分かりました。頑張ります」
目を輝かせ立ち上がる彼女をブッコローが留める。
「行く前に巨大ステーキを描いていってくれますか、食べて待ってるんで」
奇しくも『新人絵本作家の世界』の動画内で言った、ブッコローで絵本描いちゃおうよの言葉通りになった沼能さんは、嬉々としてオムライスとクリームソーダを描くと、スキップをしながら次のページに移動していった。
◆◆◆
「そろそろ行きますか」
しかたなくオムライスを食べたブッコローが文字通りページをまたぐと、そこは一面のお花畑だった。
「はいはい、定番ですね」
足元に用意されていたバスケットを持ち、色とりどりの花を摘んだ。それをリボンで一つにまとめるとまるで絵に描いたような、ではなく本当に絵本タッチの花束が出来上がる。
そのまま小道を進んで次のページに行くと、森の中にケーキ屋さんが出現した。
「絵本あるあるだな。店員はくまさんね……すみません、このハチミツケーキを一つください」
「ありがとうくま〜」
小さなホールケーキをバスケットに入れ、お店を出る。
次のページに移動するために小口(本の背の反対側の切断面、紙端を指す)まで歩きながらブッコローはぼやいた。
「こんなメルヘンで良いのかなー。有隣堂を宣伝するなら店舗に行ってプレゼントを探した方が面白くなるんじゃないか」
もっと沼能さんと打ち合わせしておくべきだったなと思いながら、ブッコローは次のページに移動した。
◆◆◆
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