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「あ、ステラおかえりなさ~い」
「どうだった?」
教室に戻ると、一年生たちの子守をしていたサヤとセラが手を振ってくれた。カイは遊び相手というより遊び道具といった具合だけど。
カイを手招きしながら小さく消音魔法を発動させ、後輩たちの耳に入らないようにする。
同時にアルトに視線で合図。ハルリの目塞いでくれるかな。
すぐに気付いて、無言でハルリの目を背後から塞ぐアルト。じたばたと暴れるハルリを難なく捕まえているあたり慣れている。ごめんね、しばらくよろしく。
カイが消音魔法の範囲内に入ってきたのを確認して、口を開く。
「盗賊だって。ここの防衛結界の魔法式目当てでここら辺を嗅ぎまわってたらあいつに捕まったらしいよ。で、唆されてあとはご存じの通り。」
一年生の頃、月夜の防衛結界を散々調べていたカイがすぐに首を傾げる。
「防衛結界の魔法式ねぇ。複雑だけど普通に魔法書読めばよくね?」
「ここのは特殊なんだ。自動修復の式は非公開だからね。」
もし仮にその頑強な結界が敗れたとしても、ものの数秒で自動で結界が修復されるという恐ろしく便利でやっかいな魔法式だ。魔法式の暗号化だけでなく擬態化までされていて、そこまで熱心にみたことがないからボクも詳しくは知らない。
さっき行った防衛結界の魔法式の点検も、異常はなさそうだなーなんていう曖昧な基準でしか見れなかった。
「そういやあれって国の要所に張られるやつだったっけか。つくづく月夜学院は普通じゃねえとこだな、本当」
一介の魔法士育成機関の防衛結界に国家機密指定の自動修復式が組み込まれているなんてことないしねぇ。
「今更でしょ。それでステラ、それだけなの?」
「セラ、それだけって?」
絶対言ってないことあるでしょ、と言わんばかりのジト目をセラに向けられる。対してきょとんと小首を傾げるサヤ。セラもこんなふうに純粋に育ってくれたらよかったのになぁ。
とか考えてるとジト目に物騒さが加わってくる。おっと。
「だってあの…御方、良いもの、って言ってたでしょ。月夜学院の防衛結界に組み込まれてる自動修復式の存在が知られてたのは確かに情報としては大きいけど、もっと他にもありそうだよ」
「鋭いねぇ。」
出来ればこれだけで済ませたかったんだけど。…いや、嘘には多少の真実を。
小さく嘆息してからセラの新緑の瞳を見返す。
「単体じゃなくて、盗賊団だよ。」
サヤが小さく髪先を跳ねさせ、カイが口笛を吹く。セラがジワリと目を見開いた。
各々の反応をする友人たちに淡々と伝えていく。
「衛兵の巡回も真誓騎士団の監視も潜り抜けてるんだよ。どう考えても普通じゃない。特に真誓騎士なんて、ボクなら三十秒も逃げられないしそもそも隠れられない。」
「そういや時々真誓騎士様のお話聞くよね。【銀風】を見かけたーって」
サヤが思い出すように人差し指を顎に添えて首を傾げる。町によく行くサヤの耳は色々な音が入りやすいのだろう。
そう言えば、不法侵入してきた姉弟子も言ってたっけ。
「北方の管轄は彼女が引き継いだらしいからね。」
歳が近いとかなんとかではしゃいでたな。
「衛兵はまだしも、真誓騎士の監視もすり抜けてるとなるといっそ不気味だな」
「普通じゃない盗賊団の存在が、【天帝】様が言ってたいいものってことなのかな」
「警戒しろ、って意味はあるだろうね。月夜はある意味爆弾倉庫だから。」
意図して作られた爆弾倉庫なだけに危機感もある。その理由の一端に自分の存在も影響しているとなると気が引けるし。
「特殊爆弾も火薬も完備な、ねぇ」
特殊爆弾と言ったところで親指でボクを指さしながら言うカイ。うるさいな、特殊爆弾はそっちでしょ。
「あいつの意図がなんにせよ、『月虚影』が何者かに奪われて色々と危険な時期に、不気味な盗賊団の存在をわざわざ教えてきたんだ。何か裏があると思うよ。」
「問題は、その裏を知るのに雑魚じゃ情報不足なんだよなぁ」
四人で顔を見合わせる。
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