不敵な嵐(シセラ視点)

僕の隣にいつの間にか立っていたステラが極寒を思わせる蒼色の瞳で眼下を見下ろし、冷たく言い放つ。


それにも一切動じていないような声が、むしろステラを挑発するように氷塊の裏から聞こえてきた。姿は見えず、中性的な声で侵入者の性別の判別はできない。


後輩達はいない。ステラが転移魔法で教室の中に退避させたようだ。場所は……南校舎三階、『最果ての教室』か。この教室だけ結界が厳重に多重展開されている。いや、ステラのことだしこっちははったりかも?


そうなるとステラの欺瞞も隠蔽も僕には見破れないし、僕ができる最優先事項は侵入者の無力化か。でもステラが校庭まで侵入を許す相手だ、軽く見れない。


無言で氷杖を形成したステラは両手でかちゃりと構えた。即席の氷杖にしては、魔法の意匠にも気を遣う彼女が作ったにしても随分凝っている。


同時、校庭に横たわる氷柱が何かに耐えかねたように消滅する。あれはステラが魔法を解除したんじゃない。なんだ?


「虹彩異色か、しかも片方は水色ときた。お前、名は?」

「ミカ!?」

「離れろと言っている。」


薄紫の外套を羽織った侵入者に詰め寄られているのは、目の色彩が左右で違う後輩—ミカだ。後輩はみんなステラが転移させたはずじゃ!?


サヤが小さく悲鳴を上げたのに被せる様にステラが氷属性上級魔法を一斉展開。ミカがいるというのに、侵入者に焦点を定めて一切の躊躇いなく百近くの上級魔法を発動させた。


「ちょっとステラ?!」

「気にしないでいい、それよかセラ、こいつの身柄確保しといて」


ステラに詰め寄ろうとするサヤの肩を引っ張りながら、遅れてやってきたカイがボロ雑巾のような男を放り投げてきた。極力触れたくないから半歩下がる。屋上に転がる男。意識はなし、カイの土鎖で縛られてるし、


「……こいつがカイが言ってた奴?」

「ああ。今ステラがぶっ叩いてんのが後から湧いたやつ。……でも多分、ありゃ生物的に違う。ステラでも抑えれねぇな」


カイが赤い目で見つめているそれは勿論薄汚い拘束された男ではなく、ステラの絶え間ない猛攻を受け姿も視認できない人物だ。


「カイ、気にしないでいいって何っ?」


カイに庇われるように背後に押しやられたサヤが緊迫した声をあげるけど、それに答えるカイの声はあくまでも淡々。


「そのまんま。ステラが一年を全員転移させたはずなのにミカが残ってるのはなんでだ。あれがあいつよりも早い動きが取れるからだ。ステラの攻撃も多分全然入ってない。全部防御されるか、魔法式ごと叩き壊されてる。相手の無力化なんて考えるな、全力で自分の保身に回れ」


「へぇ、ミカか。略称かな、本名は?」


まステラの攻撃による轟音が劈くなか、まるで校庭からは離れた屋上で会話するカイの声が聞こえていたかのように、相槌が打たれる。


そしてその相槌が風魔法で拡散されているわけでも声を張り上げたいるわけでもないのに鮮明に聞こえる。は?


「ステラ、そろそろ鬱陶しい。」


ステラが発動し続ける数百の魔法が一斉に、手で埃を払うように吹き飛ばされる。


「ステラっ」

「大丈夫だよ。」


手に持っていた氷杖すら砕け散るほどの衝撃を受けたステラは、けれど平然とその場に立って短く返事をする。それでも表情は窺えない。


うっすらと冷えた霧が残る校庭で、薄紫の外套を着た侵入者に横抱きにされているミカの姿が映る。外套…あれだけの衝撃があったのにフードも取れてない?


「そ、その……ナルア・ミカエル、です」


カイが微弱に展開している風魔法のおかげでミカのかさ細い声がはっきりと耳に届く。名乗ってる?!


ミカを石をその辺に捨てるようにポイッと放りながら 薄紫の外套の人物は僕達を気にするそぶりを見せずに首を傾げた。


何すんの?!!


殺意を膨らませた僕たちを傍目に、ミカはふわりと地面に落ちた。風魔法が使われた様子はなく、飛行魔法には長杖などの魔導具が必要なのに、なにあれ?


本人も何が起こったのか理解出来ていないようで、来る衝撃に備えて縮こまらせていた身体をきょろきょろと見ている。


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