「あれ、弱くね?もー力量間違えちゃったじゃんかよ」

「確かに、思ったよりもだね。使い捨てかな。」


魔法で作った即席の土槍を肩にかけてしゃがみ込んだカイに、ボクもまた首を傾げる。


後輩たちが繰り広げる追いかけっこの監督役をサヤとセラに任せて、カイと月夜学院敷地の端まで来たボクの目の前には、一人の細身の男が地に伏せている。


「使い捨てが月夜学院の結界を抜けたって?ここの結界は式の書き換えが通用するほど簡単に出来てねーし、穴なんてないぞ。正門から入ってきたらまず分かる。こんな端っこまで行かせるほど油断してねーし」

「カイの言う通り、コイツには結界をどうこうする実力も魔力もないね。細工する魔道具を使ったわけでもなさそうだ。…はてさて、なんでコイツはここにいたんだろうね?」


侵入者の存在を察知したボクとセラが、それぞれ侵入者の確保と後輩の保護に回ったわけだけど。侵入者はカイの土槍の一撃で昏倒、他に潜伏している仲間がいる様子もない。


第一月夜学院に何の目的で忍び込んできたのか分からない。そこまで貴重なものは保管していないはずだ。あくまでもここは学び舎なのだから。


侵入者の意図や手口がいまいち読めず首を傾げていると、カイが跳ねるように顔をあげた。


「カイ?」

「変な匂いがする。……わかんねぇ?」

「ボクには何も、変な魔力も感知してな——あ」


立ち上がって結界の向こう側へと槍を構えるカイに対し、ボクは臨戦態勢をとりながらもカイが言う変な匂いが掴めない。カイは鼻がよく、魔力を匂いで感知することが度々ある。野生の勘に近いものではあるけれど、気のせいだったということはない。


なら、ボクが魔力を察知できていないということになるけど。そんなことがあり得る?


「ふふふ、甘いねぇ。自分限定に相手が魔力を隠蔽して攪乱してくる手法だってあるんだよ。」


……————嘘。


「顔を見るのは随分になるね、元気そうで何より。」


にこにこと笑うソレ。


      ミラの出番も、もうすぐだ。


「カイ離れてッ、」



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