熱狂者

その後に、クルクルはセイロア先生によって星空学院に転移魔法で飛ばされた。


星空学院の全体統括を担っているのが、さっきセイロア先生が名前を出していたマレリア・ルーカス先生。セイロア先生がクルクルに言い渡した処罰を覆せる唯一の星空在勤の教師だ。風変わりな人物と定評はあれど厳格厳正な方だし、どうクルクルが足掻こうともセイロア先生が言い渡した処罰が変更されることはないだろう。


まして、あれから立ち上がることも一音も発することもできずに震えるしかできなかったんだし。


セイロア先生が、複雑そうな影を落とした顔をしている後輩たちへ向き直る。


「改めて、すまなかった。今後このようなことがないように対策をとらせて頂く。先の今では説得力などないが、どうか安心してくれ」


誰にでも誠意を持たれる先生なんだな、とその背中を見て思う。こんなに素晴らしい教師の皆さんがいながらどうして星空はああなのか。甚だ疑問だ。……いや、親と環境かな。


リユラが毛を逆立てた猫さながらに魔力を警戒心むき出しにしながら言う。


「……対策がどんなものなのか詳しく言ってもらえないと無理です」

「わらわからもじゃ。星空とわらわたちを隔離するだけではその場凌ぎじゃろう。根本的な解決にならぬ」


一際小柄な藤色の少女も敵意剥き出しに言い放つ。


けれど、セイロア先生は動じずに頷いた。羽織る魔法衣の胸元に刺繍された星空の紋章を叩く。


「そのための星空の教師だ。必ず、あいつらをここに引っ張り出してやる」


時代遅れの古臭い考え方からな、と。そう毅然と返すセイロア先生に何か感じるものがあったのか、リユラたちは引き下がった。


クロ先生がセイロア先生を手のひらで指し示す。


「一年生は星空の教師はリルゼ先生しか知らなかったかな。この人はセイロア・ルィカ先生だ」

「魔法士階位第一位【炎天の魔女】だ。クロムウェルとは腐れ縁で同期でな。それもあって月夜学院と星空学院の連絡係を受け持っている。よろしく」

「るっかせんせええええええぇぇぇぇえええ!!!」


あやば。首根っこを掴もうとするも間に合わず、サヤがセイロア先生に抱き着いた。


『——————え???』


ボクたち二年生はみな、星空嫌いだと公言している。にもかかわらず、星空教師に抱き着くサヤを見て唖然とする後輩たち。後輩たちからすれば、星空教師も同じだからである。


ボク、セラ、カイはやれやれと嘆息するだけだ。


「わぁわぁお久しぶりだよ元気だったっ?会いたかったああああああ!!」

「レンはいつも通り元気だな」

「うんっ!!もちろん当然元気だよっ!」

「それは何よりだ」


わいわいとはしゃぐサヤと凛々しい笑顔を浮かべるセイロア先生という光景に思考が追いつかないのか、後輩たちが一斉にこっちを見てきた。妙に見開いた目が怖い。三人揃って肩を竦めた。カイが視線をサヤに向けながら言う。


「サヤの憧れの炎系統の魔法士が、【炎天の魔女】なんだってよ」


「なんでこん、きれ、お肌、えええええええええあああああああああ」


「………憧れの、魔女なんだよ。」「……そうそう」「……いや庇えんぞあんなもん」


後輩たちが無表情でジッと見てくるこの威圧感。渋々とセラが白状する。


「サヤは、セイロア先生の熱狂者ファンなんだよね」


抱き着いた姿勢で目をきらっきらにしてセイロア先生を見上げるサヤを向いてしばし沈黙する後輩たち。ボクたちはこの後起こることを予想して虚無の表情で両耳を塞ぐ。


『先輩が星空の先生をぉぉぉぉぉおおおおおお!!!??』


木にとまっていた数羽の小鳥がばさばさと飛びだっていった。

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