魔法戦 全属性
あんなに動きを固められるなんて、どういう性質の土を使ったんだろ。しかも土に魔法式構築阻害の魔法式を組み込んでいるとか、陰湿。サヤがどうでるのか、ボクとセラはわくわくと見守る。
が、ボクとセラは観戦者だからわくわくしているのであり、対戦相手はそんなわくわくとサヤが脱出するのを傍観など出来ない。
「さあ、今日こそオレが勝たせてもらうっ!!ふはははああ!!」
歓喜に奇声を上げたカイの右耳すれっすれを炎短剣が貫いた。
「何が何やらで固まっちゃったけど……もういいっ!全部ぶった斬るっ!!!」
お、サヤがお目覚め。身体強化魔法で強引に体を動かすサヤに、炎短剣が顔面に突き刺さりかけたのにも関わらず飄々としているカイが笑った。
「おおっと?そう簡単に抜けられたら困るぜ?」
ぱちんっ、とカイが指を鳴らす。瞬間、がくんっとサヤの頭のある位置が低くなった。
「なになになに……ぬ、沼ぁ??」
サヤがすっとんきょうな声を上げて足元を見る。足元は、サヤが言った通り沼状になっていた。サヤの足が膝下まで沈んでいる。土壌形質操作に加えて水を加えて沼を作り、しかも……風で沼を乾かしていってる。さすが、とボクは失笑してしまう。
サヤが魔法式構築阻害を魔力の力業で突破して次々と炎剣を作っていく。
けれど、そんなサヤを前にしても、カイは一切怯むことなく口角を上げた。カイから漏れでた魔力でカイの制服のケープが揺れる。
カイが不敵に笑って右腕を翳した。指が、ぱちんっと音を立てる。
「舐めてもらっちゃ困るぜ?オレは――この月夜で、ステラを除いて唯一の、全属性魔法の使い手なんだぞ??」
最初の上空の土煙にはしった雷も、沼を作るために使われている水も、サヤに飛び散った泥や沼を急速に固まらせている風も。一人の魔法士が使える属性は、魔法士階位第一位であっても四属性が限度。ボクといった例外も存在しないことはないけれど、極少数に限られる。
それを、魔法士階位第二位の少年がやり遂げている。
カイも、全属性を平行して使えるわけではない。二属性が限度だったはず。それでも、厄介なことに変わりはない。
雨が降り、サヤの炎剣を散らした。サヤが顔をしかめる。
「雨を降らすなら私にも当ててよ。ちゃっかり私だけ避けて雨降らしちゃって」
「ざんねーん、魔法制御には自信があるんだ、そんなヘマはしねーよ」
「魔力制御は下手だったくせに?」
「さっきからセラはちくちくとなんなん?そんなオレに恨みある?」
耳聡いなぁ、とセラが呟く。いや聞こえるように言ったでしょうが。ジト目を送るも涼しい顔で流される。腹黒だー。
カイが〈土弾〉をサヤを囲むように数百を展開、手に持った土槍をくるりと回して矛先をサヤに突き付け、赤色の瞳を煌めかせた。
「いつまでもこのままじゃ埒があかねえしな?そろそろお開きにしましょうか、ってな!」
カイが言い放った瞬間、足が地面に埋まり上半身も硬化した泥に拘束されたサヤに、数百の〈土弾〉が一斉に射出された。
――サヤが、俯かせていた顔を上げる。
「ぶった斬る、って言ったよねっ!!」
魔力にものを言わせた業火がサヤから噴き出し、〈土弾〉の殆どを弾いた。業火を突破した〈土弾〉も、サヤが全て月夜の短剣で弾く。行き場を失った業火は蛇の形を取り大きく口を開けてカイに襲いかかるも、
「よっと」
軽く後ろに飛びながらの土槍の一突きで散らされる。喉に直接槍をぶち込まれたんだから、仕方ないかな。その間にサヤはお得意の身体強化魔法で強引に拘束を突破。制服に着いた土を手で払って落としている。
「ちっ、そのまま泥をつけてくれてたらその土で穿ってやったのによ」
「それを警戒してるの!もう!!」
ぷんぷんと怒ったサヤは火の絨毯を足下から広げていく。沼対策かな。カイが再度雨を降らすも、
「そんな雨で消えるもんですかー!〈炎灼弱絶〉を消すにはカイの水魔法じゃ火力不足だからっ!」
炎を纏わせた短剣を振るい、サヤはきっとカイを睨みつけた。
「女の子を泥まみれにするなんて最低っ!!絶対許さないからっ!!」
それに対するカイは。唖然と呟く。
「――え、お前って女の子なの?」
「……………ぶった、斬る…」
「さーせんしたあああぁぁぁああああ!!!」
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