魔法戦 独創魔法

独創魔法。個人が創った魔法の名称である。ただ、数はとても少ない。世間で日々使われている魔法は、古代から人々が魔法式を模索し、最適化し続け、受け継がれてきたものであるのに対し、独創魔法はそれを一代でしなければならないからだ。余程の天才でなければできない。


 つまり、実質不可能。


 それが、魔法士界における共通認識である。けれどまぁ。


 天才だったらできるわけで。


 だからこそ、ボクは校庭に広がる魔法式を発動させる。


「〈氷花狂瀾〉。」


ザァ、と氷に刻まれた薔薇の蔓の模様がざわめいた。


「っ!?」


セラが驚愕に目を見開く。身動きがとれないセラに、ボクは挑発的な笑みを浮かべた。


「あれ、どうしたのセラ。目の前まで来てるのに、その短剣を振り落とさないの?」

「………………チッ」


 舌打ちした!?


「でもまぁ、舌打ちしても仕方がないよねー。その状態じゃ。」


 体を縛り付ける、薔薇の蔓。ボクが数日前に完成させた独創魔法、氷属性上級魔法〈氷花狂瀾〉である。そう、地面を覆う氷の模様と同じもの。けれど、ただの蔓では初級魔法の〈氷鎖〉と変わりがない。この蔓を上級魔法たらしめるのは、もっと別の性能があるからだ。


「急げセラ。今から五秒だけ待ってあげる。その内にその蔓から逃れなければー……

キミの負けだよ。」


 セラが目を細めて魔法を組み上げ始める。その規模は流石に、ねえ?おおーいちょっと?

蔦から棘が生えぎりぎりと締め上げを強くするも、セラは動じずに鼻で笑って言った。


「五秒は待ってくれるんだろう?ならーー四秒で全部ぶち壊す」


 その宣言に相応しい、破壊の雨が降り注いだ。







 もうもうと立ち込める霧に目を細めながら、よっこいせと光矢を手で払い除ける。風を起こして霧を払いのけ、目を細めて笑った。


「はい、時間切れ。」

「ー…なんであれで砕けないかな」


 霧が晴れたそこには、光雨が降る前と変わらず蔦に捕らわれたままのセラ。不貞腐れたような顔をしている。ボクは手で掴んだ光矢をくるくると回した。


「やり方も狙いも悪くはないかな。全体に蔓延る氷を砕いて、拘束力を緩まして抜け出す。構築も発動も早くて誠実で満点。強いて言うなら、」

「言うなら?」

魔法士階位第一位ボクの氷を砕くにはまだ力不足だね。」


なんでもない事のようにさらりと言って、光矢を凍らせて地面に放り投げた。


「ところでなんだけど。この魔法は〈氷花狂瀾〉って言うんだ。でも花はないでしょ?何でだと思う?」

「なんでってそりゃー……ちょっと待って変なこと言わないでよ」

「正解は、実際にやってみよう!」


セラの静止をぶった切って指を鳴らした。さぁ、絢爛に、咲き狂え。


 ガクンッ、とセラの体が大きく傾いだ。倒れ込む寸前で踏ん張るセラは、何が起こったのか理解できずに困惑している。


そんなセラの傍らで、シャランッ、と音を立てて一輪の花が咲いた。


蒼氷でできた、繊細で美しい薔薇。


 その薔薇を黄緑の瞳に映した瞬間、セラが大きく目を見開いた。同時に、どんどんと顔色が悪くなっていく。


「……これ、まさか、」

「そのまさか。正解だよ。この薔薇はねー……獲物の魔力を糧に咲く蕾なんだよ。」


 ボクが言い放ったと同時に、一斉に薔薇が咲いた。あちこちでシャラン、という音が重なって響く。比例して、セラの魔力はどんどんと底が近づいてきているはずだ。ボクは足元に咲いた薔薇を手折ってくるりと回した。茎の先は針のように鋭く、日を受けて煌めく。


「今回も、ボクの勝ちでいいよね?」

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