月夜学院二年生

校門前で長杖から降りたボクとセラは門扉をくぐった。昇降口に学院からの配布物である長杖を立てかけ、校舎に入る。


「あれ、サヤは来てないんだ。珍しい。いつもボクより早く来てるのに。」

「多分カイを叩き起こしに行ってるんだと思うよ。クロ先生が大事な書類を配るって言ってたし、今日はサボってもらっちゃ困るからさ」

「あーあ、ボクもカイみたいにサボりはできなくたって遅刻くらい許されたいー。」

「ステラは駄目。カイみたいに魔導具の研究するっていうなら多めに見るけど?」

「お飾りになってる級長の身で仕事なんてしなくていいのに取り締まらないでよ。」

「お飾りじゃないから仕事してるんだけどっ?」

「サボり魔とボクを毎朝引っ張って来てるだけでしょ。」


やいやいと言い合いながら二階にある二年の教室へ向かう。


教室の扉には当然鍵がかかっているけれど、氷で模した教室の鍵を作ってさっさと開錠する。セラに目配せ。頷いてくれる。よし。


ガラガラと扉を開けて中へ入ると、木造建築物特有のむわりとしたにおいが鼻をついた。


「ステラ、窓開けといて」

「え、ボク寝るから。」

「は?」

「あーはいはい分かったから広域殱滅魔法なんて撃たないでくれる?」

「簡略化だしステラなら寝てたって防げるよね。僕クロ先生に出席簿もらってくるから」

「いってらっしゃい。」


なんて野蛮な級長なんだ、こんなか弱い少女に朝っぱらから攻撃魔法ぶっ放そうとするなんて。


やれやれと愚痴りながら外側の窓とカーテンを開けていると、廊下から複数の足音と悲鳴が聞こえて来た。


「おっはよーうっ、ステラ!」

「離せっつてんだろーがおい双子っ!」

「えー嫌です♪」「離しません♪」


スパーンっと毎回注意しているにも関わらず勢いよく開けられる扉。絶対今年中に壊れる。


ようようと教室に飛び込んできたのは、長く綺麗な紅髪を高い位置で一括りにしている黒灰の瞳の少女。にこにこと常に笑顔を絶やさない彼女に振り向いて片手をひらひらと振りながら声を返す。


「おはよ、サヤ。」


ボクの二人目の幼馴染であるレン・イザヤ。女の子らしい名前で呼んでほしい!という本人の要望から、サヤという渾名で呼ばれている。そしてボクよりも身長が高い。解せない。可愛らしい系の美少女で、こんな幼馴染を持つと凡人であるボクは惨めで泣くよ。セラは腹黒だから美少年でも惨めにはならないけど。

で、さっきから気になっていたサヤの背後にいる三人を見やる。


「サヤはカイを叩き起こしに行ってる、ってセラに聞いたんだけど。それは?」

「それって言うなよ!?」

「「ステラ先輩、おはようございます!」」


ボクの言葉を聞いてぎょっとしたように目を向いた渋緑髪の少年が抗議の声を上げたが、それを無視して少年を両脇で支えていた小柄な双子が元気よくボクに挨拶をしてきてくれた。


双子にぽいっと放り捨てられた少年が床にべしゃりと落ちる。まったく、受け身ぐらいとりなよ。


「おはよう、ノア、ノン。朝から馬鹿のお世話ご苦労様。」

「いえいえ、俺たちもカイ先輩には学院に来てほしいですから!」

「大丈夫ですよ、朝の荷物持ちぐらいどうってことありません!」

「しれっと友人と後輩が貶してくる」


笑顔で答えてくれた、後輩である一年生の黄緑髪に緑瞳の双子。兄であるスクエアート・シノア、通称ノアが笑顔で馬鹿の鞄を机に置いてくれた。


弟のスクエアート・シノン、通称ノンが床にうずくまる馬鹿の肩を持ってぽいっと教室内に放り込んでくれる。何から何までありがとね。


「オレだけみんな扱い雑じゃね!?」

「気のせいですよー」「気のせいですねー」

「………泣くわ」

「大丈夫、撮影魔導具ならちゃんとあるから安心して堂々と醜態を晒していいよ」

「うっおセラっ?親友に対してまーあ朝から腹黒でいって!?」

「何か言ったかな?カイ」

「いーえ何も言ってませんよだからその物騒な魔法を仕舞えって!!」

「土下座がすっごぉくお上手になってきてるよね〜、カイ先輩って」

「土下座をあんなに極めて何をしたいんだろうね〜、カイ先輩って」

「馬鹿の極みになりたいんだって。」「お馬鹿さんになりたいんじゃなかったかなぁ?」

「あ、なるほど〜」「凄く納得です〜」

「納得すんなよ双子!ステラもサヤも変なこと吹き込むな!」

「「「「え〜」」」」「じゃねえよっ!!」


と、こんな馬鹿騒ぎでいじられまくっているのは、渋緑の癖っ毛と赤眼の少年、リネル・カイラ。渾名はカイ。先程から何度か話題に出たように、サボり魔。二年生の中では一番高身長。解せない。


顔面偏差値も高い方なんだろうけれど、それよりも耳につけている金のピアスが気になるなぁ。ボクは何かしらの魔導具かな、と思っているんだけどカイは一切教えてくれない。


とりあえず、ボク、セラ、サヤ、カイで二年生全員が揃った。わぁわぁと騒いでいると、今度はカラカラと静かに扉が開く。あ。


「おはよう。カイラも久しぶりだね。シノア、シノン、もう他の一年生は教室で席についているよ?」

「おはようございまーす。」「おはようございます」「クロセンセーおはよー!」「どもっす」

「「あっ」」


入ってきたのは、黒がかかった瑠璃色髪の高身長の男性。暗い青色の瞳がやべっという顔をするボクたちを映している。センカ・クロムウェル先生。この月夜学院唯一の教師だ。


「はい、君達がしなければいけないことは?」

「「「「着席」」」」「「教室に戻ります!」」

「よくできました。それからステラ、話があるよ」


真正面から堂々と微笑んで受け止める。なんのことでしょうかまったく心あたりがないんですけど、


「防犯面から教室の鍵は魔法で作らず職員室にある鍵で開けるように、って言ったよね?」


ですよねーやっぱりバレたか裏切ったなセラ!さっき頷いたくせに!してやったりと微笑む腹黒に氷のナイフをけしかけたのは言うまでもないと思う。

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