追放されましたけど今の仲間たちにも愛されて幸せです

落花生

第1話 追放された魔法使い

「ファニ……この先に君は連れていけない」


 これから魔王に挑む。


そのタイミングで、ファニはパーティのリーダーであるリリースにそう告げられた。


リリースは、二十歳の若き剣士であった。茶色の髪に黒い瞳のリリースには、実直な雰囲気があった。その雰囲気を裏切らず、リリースはまっすぐな男だった。


ファニは、その言葉を冗談だと思った。リリースが冗談をいうなど珍しいことだが、魔王に挑む前夜は仲間たちの緊張をほぐしたかったのかもしれない。


このパーティは、魔王を倒すために一年以上旅をしている。苦難の道はあったが、仲間たちと協力してそれを乗り越えてきた。


そのためファニは、仲間たちとは特別な絆があると信じていた。だが、その仲間たちはリリースの言葉に反対しなかった。まるでファニがいない間に口裏を合わせたように。


「俺たちは、一年以上も一緒にいただろ。俺も魔法で一生懸命にサポートしていたつもりだし……」


 ファニの言葉は、リリースに遮られる。


「でも、君は半人前だろ。その証拠に仮面を取らない」


 リリースの言葉は、核心をついていた。


ファニは、見習い魔法使いである。魔法使いは一人前になるまでは、常に仮面を被ることが決まりだった。ファニは、未だにその仮面を被っている。


それはつまり、ファニが半人前の証拠だった。常に仮面を被ったファニの容姿は、ほとんど分からない。彼の外見から分かるのは、仮面からはみ出る真っ赤な髪ぐらいだ。そして、身長と高い声でかろうじて彼が年少であると分かる。


「でも、お前たちは俺が半人前でもいいと言っただろ」


 リリースは、ファニの対してそう言った。仲間たちは未熟なファニの技術と威力に納得して、自分たちのパーティに招き入れた。『君が必要だ』という言葉を信じて、ファニは師匠の元を去る決心をしたのである。


「あの時は、半人前でも魔法使いの力が欲しかったんだ。けれども、あの頃と違って今は魔法使いの力は必要ない。むしろ、これから魔王に挑むには半人前の力は邪魔だよ」


 リリースの言葉に、ファニの視界は真っ白になった。信用しているリリースから言葉は、ファニを傷つけたのだ。周囲の仲間に助けを求めてみても、誰も何も言ってくれない。彼らの意見もリリースと同じなのだ。


「俺は、このパーティのために……一生懸命に戦っていたのに」


 ファニは、リリースに背を向けた。


 命を預けた仲間にかけられた言葉がまだ頭にこびりついていたが、いらないと言われれば去るしかなかった。目頭が熱くなったが、泣くことは許されない。自分が追放された人間であることには変わりないが、みっともなく泣き崩れる姿を仲間たちに見せたくはなかった。


「まて、ファニ」


 ファニを呼んだのは、仲間の槍使いだった。


名はシル。


彼は、ファニに槍の使い方を教えてくれた人物でもある。魔法使いが槍の使い方を習うなど異例なことであるが、それでも教師になってくれた気前の良い男なのだ。


ファニは、シルが自分を庇ってくれると思った。


だが、シルはファニに何かを投げつけただけだった。ファニはそれを空中で捕まえることができず、シルが投げたものが仮面に命中する。キン、と音を立ててソレは地面に落ちた。


 ファニは、投げられたものを拾い上げる。


それは、金貨だった。


「その金貨で、師匠のところに帰れ。これが、僕たちに君にできるせめてもの償いだよ」


 リリースの言葉が、寒々しく響いた。


 泣かないと決めていたのに、ファニは仮面のなかで目を潤ませていた。自分と仲間たちを繋いでいた絆は、金貨一枚分だけだったのだ。仲間たちとは、金には代えられない絆があると思っていたというのに。


「……俺は、絶対に強い魔法使いになってやる。それで、お前らのことを『ざまぁ』と高みから笑ってやるからな。追放したことを後悔させてやる!」


 ファニは、仲間たちを仮面の中から睨みつけた。憎たらしい顔ぶれを一生忘れるものか、と思ったのだ。


 槍使いのシル。


 白魔法使いのニーニャ。


 格闘家のダラス。


そして、勇者と呼ばれるほどの剣の腕を誇るリリース。


「俺は、絶対にお前らを見返してやる!」


ファニは、走り出した。


仲間たちのことを振り返ることもなく、五人で来た道を一人で走り抜けていく。ファニを追放した仲間たちは、一つの思いを抱えながら小さな後ろ姿を見送った。




翌日、リリースたちは魔王と戦った。その戦いは三日三晩続いたが、最後には魔王は倒された。リリースたちは勝利をおさめたが、当然そこにはファニはいなかった。



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