【完結済】嘘告のターゲットに選ばれたのは、大好きな幼馴染でした。

よこづなパンダ

第1話 終わりの始まり

 私・雨川あまかわ 紅羽くれはには、大好きな男の子がいる。


 新藤しんどう かい


 クラスでは決して目立つ方ではないけど、いつも落ち着いていて、誰にでも優しくて、頼りになる。そんな彼は、小さい頃からずっと、私にとってのヒーローのような存在だった。


 私と彼は、家が隣同士の幼馴染。だから、私は彼のことを他の誰よりも知ってる。歴史の勉強が得意なこととか、実はきゅうりの味が苦手なこととか、すました風に見せていても本当は動揺しているときには首を掻く癖があることとか。


 だから、私が普段の何気ない会話で顔を近づけたときに、彼が首を掻いてくれたときは……少し、嬉しかったな。


 だって、私のことを異性として意識してくれているって気がして……


 それがたとえ、私の思い上がりだとしても。

 胸の内に秘められたこの想いが、もしかすると一方通行ではないかもしれないって思えただけで、とても幸せに感じられた。


 彼のことを『好き』であるというこの気持ちは、知らず知らずのうちに芽生えていて、中1のとき、はっきりと自覚した。以来、高1の今に至るまで、ずっと隠してきたけど、この想いだけは本当に誰にも負けない自負があった。

 だから、いつか彼と結ばれる未来を想像して、そんな将来に思いを馳せていた。


 あの日までは。




◇◇◇




 それを耳にしたのは、単なる偶然だった。


 休み時間にお手洗いに向かったら、派手な見た目の女子たちが、流しの鏡の前でたむろしていた。


「で?アンタ、ほんとに嘘告すんだよねー?」


魔耶まやみたいな美人にコクられて、本気にしちゃった後でウソでした、って???想像しただけでカワイソー♪」


「魔耶も罪なオンナね」


「アンタがやれって言ってるんでしょ!?」


「ギャハハ」


 こんな狭い場所で、5人くらいが集まって大声で話しているだけでも正直不快だけど、その内容も更に気に入らない。


 嘘告。


 本当は何の気持ちも抱いていない相手に告白をし、それを真に受けた相手の様子を見て楽しむという、人を見下して笑いものにする、巫山戯た行為。その計画が今行われていると思うと、この先を想像するだけで気分が悪くなる。


 皆の中心になって話している魔耶は、性格は最悪だけど、確かに見た目だけは綺麗で、同性の私からしても正直嫉妬してしまうような子。


 こんな子に綺麗な見た目を与えるなんて、神様は残酷だ。私も、周りの人たちから可愛いねって言われることはあるけど、それはあくまで同性からの意見で、人間関係を上手く回すためのお世辞で。

 だけど、魔耶には、私にはない人懐っこさと魅惑的な仕草と……それに、大きな胸もある。


 私にはよくわからないことだけど、男子って、そういうのに弱いんだろうな……

 彼女の上辺だけの魅力に騙されて、もしかするとその告白に頷いてしまうであろう男の子が不憫でならない。


 だけど、それも所詮、私にとっては他人事で。


 彼女たちが行おうとしている悪事を、私は見て見ぬふりをしてしまった。


 ―――このことが、後の自分自身をどれほど苦しめるかなんて知らずに。




◇◇◇




『今日も、魁くんに話しかけられなかったな……』


 放課後、帰宅とともに1人で開かれる反省会。

 この反省会も毎日嫌というほどやってきたのに、私は何度も同じ後悔を繰り返してる。


 私の、魁くんに対する想い。それは日に日に募るばかりだったけど、私はずっと告白する勇気を持てずにいた。

 つまるところ―――これまでの関係が壊れてしまうことを恐れているのだ。


 しかし、それと同時にこのままではいけないとも思っていた。魁くんとは一緒の高校に進学できたけど、登校時はいつの間にか別々になっていて、私と彼の距離は徐々に離れつつあった。


 だから、もし今後も魁くんとの関係を続けたいなら……私は前に進まなければいけないと思った。そこで、そんな臆病な自分を奮い立たせるべく、まずはどのように彼に告白するかを頭の中でイメージすることにした。


 こうして反省会とともに始まった、就寝前に彼への告白シーンを妄想する日々。

 脳内では理想の私がすんなりと彼の心を射止めるであろうセリフを吐いて、それを聞いた彼がどんな反応をするかを確かめる余裕まであるけど……実際はそうはいかないんだろうな……


 そう思いつつも、何度も思い描けば、いつかはできる気がして。


 そして私は……

 ついに明日、彼に告白することを決意したのだった。




◇◇◇




 翌日。

 覚悟は決まった。

 しかし、そんな日に限って、現実とは上手く行かないもので。


 彼は休み時間に友達と談笑していたり、今日という日に限って、常に誰かが周りにいて、なかなか声をかける隙がなかった。

 こんなことならラブレターの1つでも書いて、放課後呼び出すとかベタなことをすれば良かったかな、なんて思いつつ、機会を伺っているまま、とうとう放課後になってしまった。


 だけど―――冷静になって考えれば、今日の彼はどこか変だった。いつも以上に友達といる時間が多くて、それはまるで何か別のことを考えないようにしているみたいで、普段は落ち着いている彼が、一日中どうも落ち着いていないように見えた。 


 だから告白のチャンスを待ちつつ、彼の不自然さが気になった私は……放課後になった途端、即座に教室を抜け出してどこかへずんずん進んでいく彼の後を追った。




 ―――やがて彼が辿り着いたのは、人気ひとけのない空き教室だった。


 なんでこんなところに、と思いつつ……この時点で、薄々嫌な予感はしていた。


「あの……それで用って何かな、横差さん」


 そして、その予感は確信へと変わった。

 空き教室で彼を待っていたのは―――




 横差よこさ 魔耶まやだった。

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