第48話 大々的に、こそっと噂を流す

「なあ、聞いたか?」

「なんだ? 隕石が地球に向かって来てるって話だよ」

「何だよそれ? どこもそんな話を書いてないぞ」


「拡散すると、消されるらしい」

「消される?」

「ああ拡散した人間。行方不明らしいぞ」

「マジかよ。やべえ」


 SNSとかではなく、口伝で話は広がっていく。

 最初は、立ち話をスーパーマケットとかで、聞こえるように内緒話を繰り返した。

 当然、美樹と佳代が通っている大学や、電車の中。

 父さんは、電車の中で何かを読むふりをして、文字通りつぶやいたらしい。


 その間に、人々はガンガンに駆除従事者講習会を受けて、ダンジョンへやってくるようになった。

 それは前回の、進化するという噂の影響と、ダンジョンなら隕石が降っても大丈夫という噂のおかげだ。

 簡単に進化はできなくても、強化はできる。


 当然僕たちも、ガンガンに自身を強化する。


 父さんは、トロールを「ひゃっはー」と言いながら、狩っていた。

 意外な一面を見た。

 

 だが父さんに言わせると、インベーダーや平安京エイリアン。パックマン。その辺りからのゲーマーで、100円玉を握りしめ、喫茶店に通ったらしい。ロープレも大型タイトル。初期からやったと言うことだ。

 僕が生まれて、幾度かセーブ前に電源を切られ、心が折れたと言われた。


 話を聞いて、ごめんなさいと謝ったのは当然だ。


 ただ、若返った体と、それに引かれ。性格まで若返った気がする。

「最近会社で、なぜかモテるようになってなあ」

 などと笑って言っている。



 噂は、急速に広がり、誰かが陰謀論やオカルト系の掲示板に書いたのか、ある日を境に急激に広がる。

 その後、アマチュアの天文家だろうか?

『それを発見して、天文学会に報告申請したのに、まるでなしのつぶてだ』


 そんな報告が、上がって来た。

 『銀経280度位の方向から、来ている奴だよな?』

 『そうそう。移動しているから、まだ計算中だけど。……シミュレータに入れるとさ、結構な確率で…… ぶつかるんだよ』

『ぶつかる?』

『ああ。地球に。今、地味に噂になっているのがやばい』

『他にも見つけて、報告した奴かな。学会から回答がないから、警告がてらリークした?』

『あり得る』


 本当か嘘か、そんな書き込みまで現れ、信憑性は増えていく。


 それに比例するかのように、総モンスター駆除従事者化していく。

 協会へは、現行の16歳以上から、年齢制限をなくせと嘆願が山のようになってきた。

「そんなことをしても、試験に……」

「なら試験もなくせ。人殺し」

 とまあ。完全にパニック。


 協会は、『緊急および非常時における。ダンジョンを避難場所としての有効利用化の指針。ならびに避難者への安全担保と食糧確保に関する取り決め』という声明を、出してきた。

 早急に、ダンジョン内での農業。植物の生育テストと、家畜の飼育テストを開始する。

 直接だと、地面を含めオブジェクトの改変は難しいが、枠で囲い。土を入れれば、普通に育った。ただ期待したような、刈り取ったらすぐ戻る。再生の様なことは発生しなかった。


 モンスターも。なぜかテストプラントには入り込まず、あらされることもなかった。



「最近の噂。どうなっている?」

「アメリカと中国は、コロニーを計画しているようです。衛星軌道では危ないと、月の近くに建造予定のようです」

「そんなもの、今から造って間に合うのか?」

「当然、間に合いません。人と資材を打ち上げ、その場で組み立てを開始と言っていました。資材と費用を出せば若干人だが、枠はあると」


「緩やかな、自殺としか思えんな。一瞬で死ぬか。滅び行く地球を眺めながら死ぬか」

「一瞬は、優越感に浸れるでしょう」

「地球の最後。変わりゆく姿を見ることはできるか」


「ユカタン半島の隕石時には、数年で堆積物表面に生物が這いずった後が発見されたと発表があります」

「だがそれは、海の底か特殊な生物だろう。もう一つの方は?」

「ダンジョンですか?」

「噂ですが、一階でも別次元のため影響を受けないという仮説。これは各国でテストをしたようですが、情報は、一切他国へ出ていません。ただ。我が国では、地震発生時。全く影響を受けないことが一般常識ですから、信じてもいいかもしれません」


「では食料生産と、安全性の担保だ。できれば40階の魔女? いや鬼か。彼女を怒らせないように、自衛隊と警官隊を投入して環境を造ろう」

「現代版の核シェルターですな」



 その頃僕たちは、家財を持ち込み。家はあるが、生活の基盤はダンジョン側になっていた。

 父さんも、朝会社近くのダンジョンへ飛び、ロッカールームへおいたスーツに着替え出勤。遊びや飲みに行ったときは、どこかのホテルに泊まっているようだ。

 ある日、誰か女の人を紹介され、結婚することになったとか言われそうで怖い。


 世の中は、比較的落ち着いた感じで動いている。

 ただ、SNSや雑誌レベルだった、隕石情報がバラエティだが、話が出始めた。


 情報で、『自衛隊員だが、ダンジョン攻略始めました』などというタグが増えた。


 シンは、どこで覚えたのか、『地球滅亡まで、後276日』などとカウンターを作って遊び始めた。多分元ネタは、父さんが言った、船が宇宙を飛ぶアニメだろう。

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