第7話 管理者と、僕の力

 一口飲んでみる。

 うーん味は無い。だが、飲んだ瞬間、体が熱くなり全能感が頭を支配する。


「ああ、これ以上、システムに干渉しないでおくれ。さっきちょっと触れたが、君のおかげでシステムがおかしくてね。シュミレーション上のデータだったモノたちに、感情を与えて、能力を与え、さらには進化迄与えた。いやあ、びっくりだよ」

 そう言って、こちらをにらむ。


「あげくにだ、セキュリティを破ってここまで来た。数10億年単位で、ここを見ているが初めてだ」

「何かすいません」

「いやいい。君たちだけではないが、実験個体である以上。寿命と生命の限界を組んである。その中で君のような変化が出たことは、まあうれしいことだね」

「生命の限界ですか?」

「ああ君たちは、生まれた瞬間から、滅亡に向かうように組まれている。君たちならば、男の持つY染色体と呼ばれている物。これは世代を重ねると短くなるように組んである。これが種族の限界だ」

「なっ」

 そう言えば、前にテレビで言っていた。聞いたことがある。


「まあその中で、この僕が組んだ傑作である実験室。ダンジョン。そのシステムに簡単にアクセスして、さらに変更を加える。素晴らしい…… と、でもいうと思うかね? どう思う」


 にらまれた状態で、そう聞かれ、僕は戸惑う。

「いや、すいません。わざとじゃないんです。思ったら、そうなっていただけで」

 それだけを、やっと答える。


「いやまあ。答えとしては、実に素晴らしいんだよ。まさに予想外。と言うことだが、野放しにもできないのは理解しておくれ」

 そういうと、少し考えこむ。


「ふむ。そうだな制限を外してあげるから手伝え。拒否権は無い。どうだね」

 そう言って、またチューブを銜える。

 僕も真似をして、銜える。


「断ればどうなります?」

「当然、仕事に支障が出るし僕が困る。きっと君は、入れないようにブロックをしても簡単に入ってくるんだろう。仕事が終わるまで眠っていただこうか。ほんの数十億年くらいだ。君は寝るだけだから一瞬だ。怖いのは最初だけだから大丈夫。痛くもないよ」

 そう言って、ニマニマする。


「きっと今とは、全く違いますよね」

「そりゃそうだよ。きっと環境も違うだろう。と言っても僕の設定次第で、知った人は居ないだろうが、新種の似たような人類が歩いているかもしれない。だが、その場合。君が出てきて混血されるときっと僕が困る。さあどうだね。さっき制限を外してあげると言っただろう。君はダンジョン内で神になれるのさ」


「わかりました。お手伝いします」

「よし話は決まった。なら君は、力をコントロールすることを覚えてくれ。必要そうな情報と設備は貸そう」


 そうして僕は、ダンジョン内に創られた別空間で修業をした。

 むろん、空間内ではかなり長い年月が経ったが、そのたびに、彼。結局まともな名前は発音できないので、愛称としてシンと呼ぶことにした。彼に体の最適化と調整を行ってもらい、強靭な肉体と精神力をアップしてもらう。

 この精神力を上げることで、やっと意識的に力を使えるようになった。多分。


 ゴブリンたちは、僕の考えた『きっと怖くない』や『スライムの核を集めなきゃ』そんな意識的に考えたことを受信したようだ。

 ゴブリンの感情は、氾濫時に解放されるようにセットされている。

 そのスイッチを勝手に入れたようだし、進化については感情のスイッチが入ったゴブリン自体が『もっと役に立ちたい』と考えた結果、進化用スイッチが入ったようだ。


 だがその中で、完全な例外。

 あの、金色の鬣を持った奴。

 あいつは謎だから、捕まえて研究するとシンが言っていた。

 「命の恩人だから殺さないでね」と頼むと、「そんな勿体ないことをするか!」としかられた。


 彼の名前がシンとなったのは、どう考えても、彼のことは神としか思えなかったからだ。


「さてと、あれから外では、6時間ほど時間が経った状態。モニターを見る限り、まだ大騒ぎだね。どうしようか?」

「見た感じ、3階までが捜査範囲なんで4階へ……。 いや折角なんで、宝箱とか強力な武器と一緒に現れよう」

 頭の中で、臨時収入の文字が躍る。

 シンゆるせ。僕は阿漕なことをしている。


 気が付けば、僕を止めてくれ。

 ザックから、不要なモンスターコアを取り出す。

「金貨頂戴。後、強力そうな武器も」

 そう言って、シンに向かい、にんまりと笑う。

 そう言うと、じっとりした目は、向けられたが、

「君、遠慮というものがなくなったね。精神力をいじったせいかね」

 そうぼやきながら、ざらざらとコインが出てくる。



 2階で協会員や、依頼を受けた駆除従事者がうろうろしている所へ、大岩の後ろからひょっこりと初心者が姿を現す。当然切れた服は修復されている。


 隙間を隠すように、岩を配置してその下に小部屋を作る。そこに宝箱を置いてセット終了。転移をして、其処へ入りわざとらしく這い出して来る。

 本当なら、酸欠とか気にするところだが、今現場はパニック状態。大丈夫だろう。


 早速見つかり、大声を出される。

「君。大丈夫か? 何処にいたんだ?」

「ゴブリンが騒ぎ出して、逃げたんですが、其処の岩の隙間から、下にあった部屋に落ちたんです」

 そう言いながら、タグを見せる。


「初心者だな。無事でよかったよ。今ここは封鎖されている。ついて行くから一緒に出よう」

 そう言って、送ってもらった。


 上でも、職員さんから、無事でよかったの声。

 報告がてら、個室で調書を取られる。

 心配してくれた、お礼と一緒に宝の山を見せる。

 職員さんも、今まで見たことないコインを提出して、ついでに一振りの剣を見せる。

「こんなものが、ダンジョンの2階に?」

 それでまた、大騒ぎ。


 その話が広がって、大騒ぎになるのには、1週間ほど時間を要した。



 家へ帰って、久しぶりに父さんの顔を見る。

 それは、僕の方だけか。

「今日は、柳新町ダンジョンの方で大騒ぎがあったんだって?」

「うん。中堅クラスのチームが壊滅したって」

 このことは、言いながら胸が痛む。

 僕にかかわったばかりに、ごめんなさい。


「僕もその場所に居たんだけど、隠し部屋を新発見して、宝箱に入っていたものを今鑑定に出しているんだよ」

「ほう。価値があればいいなあ。楽しみだな」

 そう言って、父は笑顔を浮かべてくれた。

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