辞表を出したら笑われた。退職届を出してダンジョンへ引きこもる。
久遠 れんり
第1章 優しさとは
第1話 仕事を辞めた
「鬼司くん。いつものことだが、○○商事さんからクレームをもらってきたようだね。君が本来貰ってくるのは、契約書類なんだけどね」
「いやでも、最初に行ったときに、忙しい時には、声かけないでくれと言われたので、担当者さんの手が空くまで待っていたんです」
そう言うと、はあっーとため息をつく係長。
「そう言う時には、資料と名刺だけを置いて、日を改めますと言って帰るんだよ。君みたいに、何時間もただぼーっと見つめられると、相手だって仕事はしにくいし困るだろう」
「はあ、そうなんですね」
「なに、初めて聞いた、みたいな雰囲気を出しているんだよ。最初の研修でも、営業部に来た時でも教えたはずだよ」
「そうでしたっけ?」
係長のこめかみに青筋が。
「百歩譲って、習ってなくとも、そのくらい気がつけ。すぐ脇でずっと見つめられる状態を想像してみろ」
「いや、ぼくあまり。そう言うの気にならないんで」
「いや、君が気にならなくてもだな」
なぜだろう、そう言った後がっくりとして、係長は膝に手をつく。
「それと、書類。PCで変わった言葉を変換して遊んでいるのかね。書き直せ」
そう言って、何度目かの突き返しをもらう。
「これは前の人の登録がおかしいんです。変換候補が……」
係長が行ってしまった。
そうなんだよ『先日ご案内いたしました』って書くとさ、勝手に『先般。貴様を案内いたしたいと願う心、それは純粋なる我の意志である』なんていう文章に変わるんだよ。僕もこの2年困っているんだ。
うちで取り扱っているレンタル機器なのに、特別バージョンなんだ。
付属のイメージファイルから、システムを復旧させても変わらない。
クラウドから、事務用標準パックを入れようとしたら、このPCは特別仕様ですのでこちらへと言って、魔王様特別バージョンなんて言う謎パッケージにアクセスするんだよ。
標準IMなのに、なんでこんなことに、それも入力時は普通なのに、Enter押した瞬間変換される。今度係長のPCとこっそり交換してやろうか?
そんな事を思ったが、実行する勇気もなく、ついに僕は辞表を出すことにした。
2月の末。
人事課に、辞表を家でテンプレートを探して、書いてきたので出す。
「鬼司くん。辞表はね、理事とか偉い人が出すものでね。君は退職願い。こっちだよ。基本テンプレートもあって、自己都合だから失業保険も2か月間受給できません。注意してね。名前と、日にちは忘れず書いてね」
「はい」
そして、翌日提出をする。
3月末無事に退職できた。
僕は、鬼司 将(おにつかさ まさる)24歳。
無事というか、4月1日から引きこもれなかった。
まず、健康保険の手続き。継続は不可。
親の扶養に入ろうとして怒られた。
残るは国民健康保険に加入だよね。
次は年金の手続き。
退職日の翌日には厚生年金の資格を喪失するため、会社を辞めたあと14日以内に、国民年金(第1号被保険者)に切り替える必要がある。住んでいる地域の役所で申請を行うのだが、手続きの際、年金手帳、印鑑、離職票や退職証明書など退職日を証明するための書類が必要。配偶者に扶養されるなら第3号被保険者もあると言われたが、独身だし関係ない。
そして、失業保険の受給手続き。
このあたりは、まあ離職票が来てからか。
そして、同居している親に、仕事を辞めたこともきっちりバレ、さてと考える。
次の仕事を探すのに、人相手の仕事はもう嫌だ。
あれこれ考え、ハイリスクだが、ハイリターン。
上位に行けば、社会的地位も約束される。
そうだ冒険者? いや違う一般的にはそう呼ばれているが、モンスター駆除従事者だ。ダンジョンなら、人とかかわることも少ないだろう。
そう安易に考えて、講習会を受けに行く。
入口で申し込み表を書き、収入証紙2400円を張って提出。
簡単な身体測定をして、次に講習会。
主に、法律関係を習う。
駆除に関する法律として、鳥獣保護管理法。外来生物法。そして特別指定生物法。
当然武器を使うので銃刀法。後は一般の刑法。
ダンジョン内での違法行為。盗難や人に怪我をさせたり、けが人を見つけたりその時の対応とそれにかかわる法律。消防法だったりそれにかかわるもの。
ただ氾濫時は、緊急措置で救助免責が発生する。
それと、迷いと呼ばれる、等級外のモンスターが浅い階に居た場合。
これも、大体は氾濫前後の現象だが、普段でも全くないわけではない。
そんな事を3時間詰め込み、午後から試験を受ける。
合格ラインは、驚異の90点以上。
試験日は、週1回。残りは更新講習。
3年に一度の更新があり、法律の試験が義務化されている。
後は確認されている、モンスターの基本駆除方法。
これも試験に出る。
ライセンスは、初心者。初級。中級。上級となっていて、各ダンジョンにより行ける階数が決まっている。
モンスターの分布が違うためだ。
基本初心者は、スライムやゴブリンまでの階層。
そこで、魔石を年間で100個集めれば、初心者を抜け初級になる。
だがその後は、10階にある、ボスモンスターを倒すまで、各階ごとの指定モンスターの魔石100個は続く。
ボスを倒せば、中級駆除従事者。
11階には転移石があり、触れば登録できて、入口へ帰れる。親切設計。
10階以降は、階ごとに指定されたモンスターの魔石10個。
20階以降は上級となり、10階ごとに居る、ボスモンスターの魔石を提出すれば、10階数が更新されるらしい。
それで、試験? また来週来ることが決定したよ。
だが、今回貰ったテキストがある。
それと本屋に行けば、例題集も売っているようだ。
隣のおじさんが、買えばよかったとぼやいていたので、帰りに買おう。
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