第6話 it's been awhile
もう学校を休んで3日になる。
あのゴメンナサイ事件が火曜日だったから、結局今週はそれから学校に行くことはなかった。
戻り方がもうわからない。
照也はあの日から家で塞ぎ込んでいる。というわけではなかった。
朝は普通に起きて、朝食をとり、家族に行って来ますを言って、家を出る。
高校は休めば家に電話が行くから、父親のふりをして、学校に電話をして休む旨を伝えていた。
照也は親に心配はかけたくなかった。というか、親に気付かれれば何とかして学校に行かなくてはいけなくなるから、その面倒を避けたかった。というのが理由だ。
照也は家を出てから、学校には行かず駅前のロータリーに行き、ベンチに座ってスマホを取り出す。
でも、ロータリーのベンチにあまり居座ると交番の警察官に不自然に思われて声をかけられてしまうから、1時間くらいで席を立ち、海辺の海浜公園に、移動する。
というのがいつものパターンだった。
そこで、照也は考える。
「今日も学校に行けなかった。でも、いくらなんでもあまりに休みが続けば、学校も不審に思うかもしれない。」
「でも……やっぱり行けない。」
イヤホンを着け、iPodを聞きながら、照也の思考はこのたった2つの考えを堂々巡りしていた。
気付いたら夕方になっていた。
そして、いつもなら15時半すぎには人がほとんどいなくなる海浜公園の周りに、今日はやけに人が多いことに気付いた。
「あー、今日は【SONIC FESTIVAL】だ。」
SONIC FESTIVALとは、照也の地元で開催されるフェスだ。
夏フェスの分類には入らず、10月に開催されるロックフェスティバルである。
開催は金曜日の夜という所も夏フェスとは大きく趣旨が異なる。
照也がこの街に引っ越してきた3年後、照也が中3の時に始まって、今年で4年目。
参加アーティストは国内外を問わないロックバンドが名前を連ねる。
入場料は25,000円と非常に高額で、照也は行きたくても行けない。という状況で、参加バンドのラインナップをみて心を踊らせる。ということしか出来ないでいた。
いつもなら16時には海浜公園を立ち、家に帰るのだが、照也は動かなかった。照也の足は釘付けになっていた。
朝からずっとイヤホンをつけていたから気付かなかったのだ。SONIC FESTIVALのリハーサル音が、この海浜公園であれば漏れて聞こえてくることがわかったからだ。
「すごい!すごいぞ!これはあのバンドのリハだ!」
聞こえる。ここなら聞こえる。25,000円がなくても、ここなら聞こえる。
学校に行けず、彷徨うだけだった照也はこのことに興奮した。
リハーサルが終わり、18時半にはフェスの本番が始まった。
本番になると、歓声にかき消され、リハーサルの時よりは楽器やボーカルは聞こえにくくなった。
でも、その分ライブの臨場感は考えられないくらいに上がった。
「ヤバい、血が沸騰しそうだ。」
照也は、赤く、青く、白く眩く光る空を見ながら、この臨場感に興奮していた。
すでに22時を超えていた。
だが、照也はいまが22時を超えているなんて、微塵も感じていない。
照也はただ興奮する中で時が流れ、ここが海浜公園であることも忘れていた。
しかしそこに、フラフラと歩いてくる、まるでタイヤがパンクしたF1マシンがピットに戻ってくるかのように、フラフラとゆっくりと歩いてくる男を目にした。
「マズい!狭山くんだ!」
そう。そこに歩いてきたのは海斗だった。
海斗は空が明るい方に向かって、引き寄せられるように南に向かって歩き、海浜公園にたどり着いた。
照也はあせっていた。
「気付かれたらどうしよう!」
と、いう照也の心配も不要なくらいに、海斗は全く周りを見ることなく、SONIC FESTIVALの照明により色とりどりに光る空をただただ眺めていた。
照也は少し安心した。
ここを離れたくない。でも、海斗に気付かれたくない。という心境の中で、海斗が全く周りを見ないことで安心した。
そこで、空は暗くなり、楽器の音も聞こえなくなり、ただただ観客の歓声だけが響いた。
歓声を聞くからに、ライブはまだ終わっていない。
でも、静寂だけがそこを包んでいた。
すると、とてつもない歓声が響いた。
楽器の音は聞こえない。歓声があまりに大きくて聞こえない。
だけど僕にはわかった。
「あの曲だ。」
それは、先程からライブをしているアメリカの大物バンド最大のヒット曲だ。
静かなイントロから始まる、心を引き裂かんばかりの名曲だ。
照也にはハッキリと、歓声にかき消された向こう側の楽曲が聞こえていた。
it's been awhile / STAIND
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