チャンネル

第1話

　わたしはぽぽちゃんが嫌いだ。広大なインターネットにぷかぷかと浮かぶぽぽちゃんは、たとえ手も足も動かせなくなるほどの濁流に揉まれても消えることがない。ぽぽちゃんは永遠に流される。どんぶらこ、どんぶらこ。

　ふと流れてきた桃太郎の読み聞かせ動画に「永遠にぐずっていた私の子どもにこの動画を見せたら静かになりました！　本当にありがとうございます！」というコメントがついていた。よかったね。さらに見ていくと「ぽぽちゃん幸せそうだなあ。私もぽぽちゃんみたいに育てられたい」というコメントが目についた。絶対やめたほうがいいよ。溺れても、誰も助けてくれないから。

　みんなに可愛がられたぽぽちゃんは、今年で高校生になる。

　重大発表。ジェンダーリビールケーキでお祝いしてみた。マタニティブルーで涙が出るドッキリ。出産直前のなぁちゃんに密着。生まれました。ぽぽちゃん初めての寝返り。コラボ！　ぽぽちゃん初めての人見知り。ぽぽちゃんが歩けるようになりました。ぽぽちゃん初めてのみかんを食べる。ぽぽちゃん初めてのシャボン玉。ぽぽちゃんぽぽちゃんぽぽちゃん。何度下へスクロールしてもぽぽちゃんの動画が並ぶ。

こみ上げる吐き気を治めるようにスマホを置き、狭いネットカフェのふにふにする床へ寝転がった。窓のない狭い空間は、最新の換気システムが導入されているというシールが壁に貼られているのに、なんだか息苦しい。今頃、わたしの家族はわたしを探しているだろうか。突然眠気が襲ってきたような気がしておもむろに瞳を閉じる。しかし、瞳を閉じると眠気は引っ込み、真っ暗な瞼の裏に浮かぶのは自分の家族のことばかりだった。