五十三 姉妹校交流会(三)

 ホールに戻る前、後ろを確認する。千風はいなかった。

 ほっと胸をなで下ろし、彩芽はバンケットホールへと入った。

「蘭ちゃん!」

 蘭は先ほど別れた時と同じ場所にいた。急いで駆け寄る。

「どうしたの、慌てて」

「蘭ちゃん。さっき、千風ちゃんを見た」

「えっ?」

 蘭は怪訝な顔をしている。

「嘘じゃないよ。電話してるとこ見たんだけど、声が千風ちゃんだった」

「なぜ、彼女がここに? 電話の内容は?」

「分かんない⋯⋯でも、何か良くないことが起きるのかも。何か、電話で『僕がいることも、僕らの目的も気づかれていない』って言ってた」

「確かにそうね⋯⋯先生に伝えた方がよさそうだわ」

 蘭が足を踏み出したその時、嫌な気配が立ち込めた。

あやかし⋯⋯!?)

 会場がざわめき出した。一瞬で空気が張り詰める。

 予想に反して、現れた妖は幼児くらいのサイズだった。こちらに敵意がないのか、ホールをうろうろと歩き回っている。

 皆が拍子抜けしているのが分かった。少しすると、交流会の余興だと考えたのか、会場は元通りの空気感に戻っていた。それどころか、誰がこの妖を祓うのかという期待さえあった。

「せんせー、あの妖何? 誰が祓うの?」

 生徒の一人が教師に尋ねる。

 教師の顔は、まるで予想外のことが起こったかのように真っ青だった。

「じゃ、あたしが祓っちゃおー」

 生徒がちょっかいをかけにいこうとする。

「やめなさい!」

 教師が慌てて止め、祓魔具を顕現させた。妖が振り返ると同時に、教師が祓った。

「間に合った⋯⋯今の妖は基本的には無害ですが、怒るととても攻撃的になります。あちらに気づかれないうちに、迅速に祓うしかありません。皆さん、けがはありませんか?」

 怒ると攻撃的になる妖。そこには、明らかに誰かを殺すという意思が存在していた。

 犯人の狙いは、この中の誰なのか。あるいは、全員なのか。誰にも分からなかった。

 彩芽には、千風が犯人に思えてならなかった。

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