五十一 姉妹校交流会(一)

 一月十四日。

 彩芽は制服を着て、迎えを待っていた。あの後、蘭が会場まで彩芽を乗せていくと申し出てきたのだ。彩芽の両親も快諾したため、彼女はこうして北大路家の車を待っているのだ。

 カバンからコンパクトミラーを取り出し、最後にもう一度身だしなみを確認する。

 制服にゴミはついていないか。リボンは曲がっていないか。

(よし、大丈夫そう)

 ミラーをカバンにしまっていると、小さなブレーキ音が聞こえた。

 顔を上げると、そこには北大路家の車が停まっていた。

 運転席から霧島きりしまが降りてくる。

「おはようございます、彩芽様。お待たせして申し訳ございません。お嬢様からお話は伺っております。どうぞ、お乗りください」

 そう言い、いつものようにドアを開けてくれる。

 乗り込むと、そこには蘭がいた。

「おはよう、蘭ちゃん。乗せてくれてありがとう」

「気にしないで。霧島、出してちょうだい」

 蘭が運転席に呼びかけると、車はゆっくりと動き出した。


 三十分ほどたった頃、車はホテルに入った。

 高層ビルが立ち並ぶ通りに、それはあった。

 会場は、ホテル・プラチナム東京。彩芽が住んでいるところからは離れたところにある高級ホテルだった。もちろん、彩芽は泊まったどころか、足を踏み入れたことすらない。

「到着いたしました」

 霧島がドアを開ける。二人は順に降りた。

「わぁ⋯⋯!」

 ただ見上げただけでは全体が見えないほど、大きなホテルだった。

「彩芽、行くわよ」

「う、うん」

 彩芽は気後れしつつも、蘭に手を引かれて歩いていく。

「すごいホテルだなぁ⋯⋯蘭ちゃんは、ここ来たことある?」

「えぇ、何度か。サービスが行き届いていて、いいホテルよ」

「そうなんだ⋯⋯」

 招待状によると、会場は、最上階のバンケットホール「スフェール」だった。

 後ろの壁がガラス張りになっているエレベーターに乗り込み、最上階を目指す。

 一階ではほぼ満員だったエレベーターが、上へ行くごとに空いていく。最上階に着く頃には、彩芽と蘭の二人だけになっていた。

 チーン、と音が鳴り、扉が開く。バンケットホールの前には長机があり、「受付」と書かれた紙が下がっていた。

 前にいた生徒にならい、彩芽も招待状を差し出す。

 受付係は招待状を確認すると、手元のリストに印をつける。そして、「ありがとうございます。中へどうぞ」招待状を返し、微笑んで二人を案内した。

「うわぁ⋯⋯!」

 会場に入ると、まるでお城の舞踏会のような空間が広がっていた。

 今日は立食パーティをするらしく、テーブルの上には料理が所狭しと並べられているところだった。

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