十七 期末試験

 ついに期末試験の日がやってきた。

 日程は二日間で、今日は専門科目の試験がある。

 胡蝶館女学校では、祓魔師になるための科目を専門科目と呼ぶ。ちなみに、対する五科目は基本科目と呼ばれている。

 明日は基本科目の試験で、こちらはある程度自信がある。問題は、今日の専門科目だ。こちらは胡蝶館女学校の独自カリキュラムのため、塾や参考書での対策ができない。もともと祓魔師になるための勉強をしてきていない彩芽にとっては、不安の種だった。

「問題用紙と解答用紙がない人はいますか?」

 教室は静まり返っている。

「では、始めてください」

 その瞬間、解答用紙を翻す音が響いた。

 彩芽も用紙を裏返し、目を閉じて深呼吸をする。これは、彩芽が小学校時代からしている試験前のルーティーンだった。こうすると、いつも落ち着いて取り組めるのだ。それは彩芽にとって、お守りのようなものだった。

(落ち着け、私。大丈夫、落ち着いてやれば絶対できる)

 問題用紙に目を通す。彩芽の手に負えそうな問題ばかりだった。彩芽は解答用紙に鉛筆を走らせる。

 彩芽が鉛筆を置いた時、時刻は終了五分前だった。理想的なペース配分で解き終わった。

 彩芽は、残った時間で見直しをすることにした。その結果、解答欄のミスや解答ミスは特に見つからなかった。

 それほど得意な科目ではないが、これなら追試にはならなさそうだ。彩芽は胸をなで下ろした。

 その日は専門科目の試験に必死になっていたため、試験以外のことを考える余裕などなかった。

 つまり彩芽は、次の日に事件が起きるとは毛ほども考えていなかったのである。


 二日目。今日は基本科目の試験だ。

 できる限りの対策はした。あとは自分を信じ抜くだけだ。

 彩芽はそう、意気込んでいた。

 試験は一時間に一科目のため、二日目は五限まである。

 今日が終われば、あとは夏休みを待つばかりだ。楽しい夏休みのためにも、彩芽は何としてでも追試を回避したかった。

 四限までは、何事もなく終わった。

 この時の彩芽は、次で一学期の試験が終わるということしか考えていなかった。

 事件は、五限に起こった。五限の科目は国語だった。

 彩芽は文系科目が比較的得意であるため、それほど緊張はしていなかった。これで終わりだと気が緩んでいたのは否定できない。

 問題を解いている途中で、彩芽は壁の時計に目をやった。

 問題用紙に目線を戻そうとした時、斜め前方の席に座る千風が目に入る。

 千風の動きは、どこか怪しく見えた。

(何してるんだろう⋯⋯?)

 問題に戻るのも忘れて、彩芽は千風を凝視していた。

 千風は左手に鉛筆、右手に文字がびっしりと書かれた紙片を握っていた。時折、考えるふりをして紙片を見ている。そして、何食わぬ顔で解答を書いていく。

 カンニングだ。彩芽は、以前食堂で聞いた噂を思い出した。

 彩芽は、噂が本当であったことより自分のクラス、それも彩芽から見える位置で不正が行われていることに驚いていた。

 はっと我に返り、彩芽は慌てて解答を書き込む。いつの間にか、かなり時間が過ぎていた。

 今から解いて、間に合うだろうか。彩芽は必死に手を動かした。

(できたっ!)

 彩芽が鉛筆を置いた瞬間、チャイムが鳴った。滑り込みセーフで、何とか全問終わった。見直しをする時間が取れなかったため、点数がどうなっているかは分からなかった。

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