祓魔少女
卯月みお
プロローグ
一 大事な話
自分の行く先がどうなるか、
桜がもうすぐ咲こうとしている頃、市内の小学校では卒業式が行われていた。
三月らしくまだ肌寒さの残る日だったが、空は門出を祝福するように晴れ渡っていた。
卒業式は晴れ晴れしい巣立ちの日だが、学校で涙を流す者が最も多い日でもある。涙といっても、決してマイナスのものではない。各々の胸にあふれる様々な思いから流れるものだ。それ以上に綺麗な涙は、他にないだろう。
ここ第一小学校も例にもれず、別れが辛くて泣いている児童があちこちにいる。
「
「うん。彩芽も、元気でね!」
九条彩芽も、クラスメイトとの最後の時間を過ごしている一人だった。
彩芽とは入学以来の付き合いである花は低学年の頃から成績がよかった。そのため、今年中学受験をしていた。彼女は受験勉強の甲斐あって見事合格し、春からは第一志望だった名門私立中学に進学する。彩芽は中学受験をしなかったため、第一中学校に通う。第一中学は、第一小学校の児童の大半が進学する学校である。
校門を出る時、少し振り返って校舎を仰ぐ。今までありがとう、と学び舎に別れを告げ、彩芽は両親の手を引いて歩き出した。
「彩芽の卒業を祝って、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
父がグラスを掲げて音頭を取ると、母と彩芽もそれに
三人がグラスをカチンと突き合わせると、父はワインをあおった。
九条家では、何か祝い事がある時は外食をする習慣がある。
今日も習慣通り、外食に来ている。個室の席に通された時、彩芽はとても驚いた。両親はかなり奮発してくれたのだろう。店は子供には少し格式高いレストランだったが、大人になったような気がして彩芽は嬉しかった。
「彩芽も、卒業なのね⋯⋯。ついこの間入学したと思ったのに、早いわ」
母がしみじみと言う。
「おいおい、母さん。彩芽はもう中学生だぞ? その調子じゃ、三年後にまた同じことを言うんじゃないのか?」
「あら、卒業式の前に同じことを言ってボロボロ泣いていたのは誰かしら?」
母が微笑むと、「そ、それは今言わなくてもいいだろ」父は恥ずかしそうに反論した。どうやら痛いところを突かれたようだ。
美味しい料理に、両親の仲睦まじい姿。彩芽は自然と笑みがこぼれた。
「⋯⋯彩芽、話があるの」
それまでの流れを断ち切るかのように、母が切り出す。
「何?」
彩芽はステーキを切り分けつつ返事をする。
「こっちを見て」
母がこう言う時は、重要な話をする時だ。彩芽はナイフとフォークを置き、顔を上げる。彼女の声や表情は、真剣そのものだった。
「彩芽は来月から中学生になるけど、入学するのは第一中じゃないの」
「えっ⋯⋯? じゃ、じゃあ私、どこに通うの?」
思ってもみない話だった。小学校の友人は、大半が第一中学校に進学する。そこに通わないなら、どこに通うというのだろうか。
「
「えっ!? 胡蝶館って、
日本には太古の世より
「そう。うちは細々と続く祓魔師の家系なの。彩芽も祓魔師の基本的な技術が身についているのよ」
「えっ、どこで⋯⋯あっ!」
思い当たったことがある。
九条家では彩芽が小さい時から、母が遊んでくれる時間があった。彩芽の知らない遊びばかりで楽しかったが、どうやら、あれがそうだったらしい。言われてみれば、妖らしきものを祓ったことがあるような気がした。
「ってことは、髪を伸ばしてたのも」
「ええ。校則で髪を伸ばす必要があるからよ」
「卒業式で髪上げるためだと思ってた⋯⋯」
今日、私立に行く友人に別れを告げたばかりだというのに。まさか自分も、他の友人と離れ離れになるとは夢にも思わなかった。
「で、でも私、入試受けてないよ?」
「胡蝶館はね、一般入試枠とは別に家系で入れる枠があるの。うちは決して大きな家ではないけれど、何人か祓魔師を輩出しているからオーケーだったみたい」
「嘘でしょ⋯⋯」
その日小学校を卒業したばかりの十二歳には、あまりに突飛な話だった。
卒業式の余韻も、来月から始まる新生活への緊張も、全て吹き飛んでしまった。
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