夜が消えた日

猫又大統領

読み切り

 町を離れてどれだけたったのか記録のために書いていた日記をやめました。町を離れるときに帰れないことを覚悟をしていたはずなのに、日記に日付を付けるたびに、帰れる日を夢見ているようで嫌になったからです。

 私たちは全員が志願したもの達です。でも、故郷を懐かしく思わないものは一人もいません。愛するものを失った人、自分の夢よりも未来を考えた人、そんな彼らと共にここで戦えることが今は幸福です。私は教壇に立つという夢がありました。ビシッと決めて、”生徒諸君”このセリフが言ってみたかったのです。ただそれだけです。もちろん、立派な教師になることは保証できます。ここへ来たのですから。そんな叶わぬ夢を話すことを許してください。この駄文を皆様の目に触れることはこれで最後になります。

 

 前回の皆さんからの連絡では町に光が見えてきたということでしたね。それが夜明けの光であることを願っています。

 本来なら、町のみなさんからの連絡を頂いてから返信の手紙を書かなければいけなのですが、残りのこちらの戦力を考えた時、この手紙を書いたあと、攻勢へでることになりました。

 幸いにも、未だ我々に死者は出ていません。ですが、負傷者が多数でています。次の攻撃が最後になると思います。彼らが弱っていることは日に日に実感しています。

 

 日の光の下でこの手紙を読まれていることを願っています。

 日の光は頭上にありますか? もしそうであるならば私たちは嬉しいです。悔いはありません。

 夜は今、私たちの頭上にあります。では、さらば。輝く故郷よ!

 

 

 

 伝書鳩ちゃんこれをどうか故郷に届けてね。

 

「以上。朗読おわり。でした。これはテスト範囲だからね」

「ねえ。先生、教科書には鳩ちゃんのことは書いてないよ? その後、都市から援軍が来てやっつけたでしょ?」

「僕も疑問なんだけど、負傷者のことは教科書に書いてないよ。すごい働きをして傷ひとつなかったってテレビでやっていたよ」

「今の偉い人が援軍をたくさんよんで守ってくれたんでしょ?」

 生徒たちが次々に疑問を口にする。

「教科書ではそうだった。気持ちが乗ってしまったよ。生徒諸君!」

 私がそういっても生徒たちは釈然としない様子だった。

 太陽は紛れもなく私の前にある。それだけが今の希望だ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜が消えた日 猫又大統領 @arigatou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ