第11話(2)集中力を乱す

「その調子でガンガン行きなさい!」


「頑張れ~!」


 フォーとななみの声援に応えるように、船橋が攻勢を強める。リンが内心舌打ちする。


(ちっ、このままだと相手に流れがいきかねんな……)


「流れを変える必要性があるね」


 リンにローが話しかける。背後からいきなり話しかけられたリンは驚く。


「どわっ⁉ な、なんだ、人の考えを読むな!」


「だから読んでいないって。考えていそうなことは大体の予想がつくって話だよ」


「ま、まあ、それはいい……流れを変えると言ったな?」


「ああ」


「どうすればいい?」


「単純なことさ。次にボールを拾ったら僕の指示に従ってくれ」


「分かった」


 リンが頷く。しばらくして、リンがこぼれ球を拾う。ローが声を出す。


「よし!」


「ロー!」


「いや、僕じゃない!」


「え⁉」


「センターサークルだ! そこにボールを!」


「わ、分かった!」


 リンがセンターサークルへボールを蹴り出す。そこにはラドがいた。ローが声を上げる。


「ラド、変身だ!」


「え? ゴール前じゃないけど良いの?」


「構わない!」


「分かった~♪」


 ラドが大きなドラゴンに変化し、ボールをキープする。ローが頷く。


「よし、振り向き様にシュートだ!」


「良いの~?」


「ああ! 撃て!」


「オッケー♪」


「!」


 ラドが振り向き様に放ったシュートは強烈で、クーオとレムを吹き飛ばした。しかし、惜しくもゴールポストに当たって跳ね返る。ゴブが慌ててそれをライン外へ蹴り出す。


「な……」


「ちっ……」


 絶句するななみの横でフォーが舌打ちする。


「あ~また入んなかった~」


「いや、上出来だよ……」


 頭を抱えるラドにローが声をかける。ラドが首を傾げる。


「へ?」


「その調子でこの位置からでも、どんどんシュートを撃っていってくれ」


「うん、分かった♪」


 ラドが笑顔で頷く。リンがそれを見て呟く。


「なるほど、布石を打ったというわけか……」


 そこから試合の流れは膠着状態になる。ななみが地団駄を踏む。


「う~ん、ペースが握れない!」


「あんな馬鹿みたいな位置からでもシュートがあるとなると、どうしても慎重にならざるを得ないわね……」


 フォーが腕を組む。ななみが問う。


「ど、どうすれば⁉」


「まあ、ピンチはチャンスとも言うわ……スラ! ルト!」


 フォーがスラとルトをライン際に呼び寄せ、小声で指示を送る。


「な、何を指示したの?」


 ベンチに戻ってきたフォーにななみが尋ねる。


「まあ、見てれば分かるわ……」


「? あ、スラちゃんとルトちゃんが皆に指示を伝達している……」


 それは当然、越谷側も見ている。リンがローに近づき、小声で囁く。


「守備陣形の見直しか?」


「こればっかりは様子を見てみないと分からないな」


 ローが肩をすくめる。


「やることは変わりないな?」


「ああ、頼むよ」


 リンの問いにローが頷く。


「……よし!」


 その後、こぼれたボールがリンに収まる。ローが再び声を上げる。


「リン、センターサークルだ!」


「! ああ!」


 リンがすぐさまボールをセンターサークルに送る。ラドがほぼフリーの状態でボールを受ける。ローが素早く指示を出す。


「ラド、またシュートだ!」


「うん! って⁉」


 ラドが驚く。振り向いた先にレムがいたからである。リンたちも驚く。


「そ、そんな位置にゴールキーパーが⁉ この為の情報伝達か⁉」


「マズい!」


 ローの危惧通り、ドラゴン化しようとしたラドが変化をやめてしまう。それを見たフォーが拳を強く握る。


「驚きで集中が乱れて、ドラゴン化出来なかった! 今よ、レム!」


「おおっ!」


「わあっ!」


 レムがラドからボールを奪う、フォーが指示を出す。


「そのまま突き進みなさい!」


「おおおっ!」


「な、なに⁉」


 虚を突かれた越谷は、レムの攻め上がりを止められない。フォーが再び指示を出す。


「そこよ!」


「うおおっ!」


 レムが脚を高々と上げ、シュート体勢に入る。


「そうはさせないんだから!」


 ドラゴンと化したラドが猛然と追いかけてくる。


「もらった!」


「止める!」


「待て! ラド!」


 ローが制止するが、ラドはスライディングタックルの体勢に入る。すると、レムがシュートを空振りする。ラドが戸惑う。


「ええっ⁉」


「⁉」


 ラドの大きな足がボールに当たり、ボールは物凄い勢いで飛んでいった……ただし、越谷ゴールの方に。まさか味方のシュートが飛んでくるとは予測出来なかったレイナの魔法は発動せず、ボールは越谷ゴールのネットに突き刺さった。


「う、うまくいった……!」


 レムが控えめにガッツポーズを取る。ななみが感心する。


「レムちゃん、タイミング良く空振りしたわね……」


「背中にかなりの圧を感じたんでしょ……」


「ああ、なるほど……」


 ななみが納得する。


「はあ、はあ……」


「してやられたな、ラドの体力がかなり消耗させられた。しばらく休ませないと……」


 肩で息をするラドを見て、ローが渋い顔になる。現在のスコアは4対7である。

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