第10話(3)フォーの策伝授

「ふむ、というわけで……」


「……」


「ハーフタイムを迎えたわけだけれども……」


「………」


「まさかここまでとはね……」


「…………」


「1対7ってアンタたち! さすがに点取られ過ぎよ!」


 ロッカールームでフォーが声を荒げる。ななみがなだめようとする。


「フォ、フォーちゃん……」


「『ミネイロンの惨劇』か! 守備が崩壊し過ぎなのよ!」


「す、少し落ち着いて……」


「これが落ち着いていられる⁉」


「か、監督が冷静さを欠いたら、勝てるものも勝てないわよ!」


「!」


「な、なんとか後半に向けての指示を……」


「……ふう、ごめんなさい、アタシとしたことが……」


 フォーが自らの胸を抑えて、呼吸を落ち着かせる。


「大丈夫?」


「ええ、落ち着いたわ……」


「それじゃあよろしく……」


「……まあ本当にまさかここまでとは思わなかったけど、ある程度リードをつけられることは予想していたわ。後半というか……終盤の反攻策は用意してある」


「ほう……」


 レイブンが腕を組む。


「後半はこれ以上のリードを許さず、なおかつ同点に追いつき、逆転しなければならないという二つのタスクを並行して行わなければならないわ」


 フォーが右手の指を二本立てる、ななみが戸惑う。


「む、難しいわね……」


「そう、とても困難よ。だけど……」


「だけど?」


「アタシには策があるわ」


「だからそれをさっさと教えろ」


 レイブンが口を開く。


「まあ、そう慌てないで……まずはゴブ」


「え⁉」


 ゴブが驚く。


「対面する機会が多い、あの魔法使いピティをなんとかしなくちゃならないわね」


「そ、そうは言っても、あいつのデバフ魔法は思った以上に強力で……」


「多少のムラはあるようだけど、複数の相手に対して、さらに広範囲でデバフ効果をもたらせることが出来るようね……」


 フォーが頷く。ゴブが頭を抱える。


「ああ、脚を遅くさせられたり、逆方向に走らせられたり……」


「挙句の果てにはボールの軌道まで変化させていたわね……」


 ななみが呆れ気味に呟く。


「あんなもんどうすりゃいいんだ……」


「……魔力というものには限界があるわ」


「え?」


「短時間でそうそう乱発は出来ない……」


「じゃあその魔力が切れるのを待つってことか?」


「それも一つの手だと思うけど……アタシの考えは……」


 フォーは考えをゴブに伝える。


「……ふむ」


「分かった?」


「あ、ああ……」


 ゴブが頷く。


「結構。それじゃあ、次はあの女騎士ビアンカだけど……クーオ」


「お、おうよ……」


「どうかしら? 勝気な女騎士さんは?」


 フォーが皮肉めいた問いかけをする。


「い、いや、あれは勝気ってレベルを超えているべ! 初めてだべ、身の危険どころか、貞操の危機を感じたのは……」


 クーオがその巨体をブルブルと震わせる。


「いわゆる肉食系女子って感じかしらね……」


 ななみがボソッと呟く。


「まあ、ストライカーとしてはあれくらいがちょうどいいのかもしれないわね。相手を食い殺さんばかりの迫力……」


「か、感心してないで、どうすれば良いんだべか?」


 クーオが縋るような目でフォーを見る。


「アタシの考えは……」


 フォーは考えをクーオに伝える。


「……お、おお……」


「どう? 分かった?」


「お、おう……」


「結構……それで次はあのヒルダだけど……ルト、アンタに任せるわ」


「え、お、オレっすか?」


「ええ、アンタがピッタリだと思うわ。アタシの考えはこうよ……」


 フォーが自らの考えをルトに伝える。


「な、なるほど……」


「そういうのはトッケちゃんの方が良くない?」


 ななみが尋ねる。


「それもそうだけど、トッケにはゴールを狙うことに専念して欲しいからね」


「そうか……」


「というわけで、分かった? ルト?」


「わ、分かったっす!」


「それは結構……それでトッケ、アンタにはゴールを期待したいんだけど……」


「あの賢者をどうにかしないとどうにもならないみゃあ~」


 トッケが諦め気味に両手を広げる。


「魔法でシュートを止めたり、軌道を変えたりするんだものね……」


 ななみが首をすくめる。


「あんなのどうすればいいみゃあ~!」


 トッケが自らの顔を覆う。


「……策はないわけではないわ」


「え? ゴブと同じようなことをしろとか言うのかみゃあ?」


 トッケが顔を上げてフォーに問う。フォーが首を左右に振る。


「そうではないわ。そういう機会が少ないだろうし……」


「で、ではどうするんだにゃあ?」


「アプローチの仕方を変えるのよ」


「アプローチの仕方?」


「そう、アタシの考えはこうよ……」


 フォーが自らの考えをトッケに伝える。それを聞いたトッケが顎に手を当てる。


「ふ、ふむ……」


「どうかしら?」


「そ、そんにゃに、上手くいくものかにゃあ?」


「やってみる価値はあると思うわ」


「むう……」


「分かったわね?」


「わ、分かったにゃあ!」


「それは結構……お次はレム、あのラドというドラゴン娘だけど……」


「あの強烈なシュートは厄介だ。コースは多少甘いが威力は抜群。分かっていても止められない。まんまとハットトリックを許してしまった……」


「ポストやバーに当たったり、わずかに外れたのもあったわ。ツキはまだあるわよ」


 うなだれるレムをななみが励ます。フォーが口を開く。


「とはいえ、運頼みじゃあ限界があるわ……」


「で、では、どうすれば……?」


「これは予想込みではあるけれど……アタシの考えはこうよ……」


 フォーが自身の考えをレムに伝える。


「ほ、ほう……」


「トッケ同様にトライしてみる価値はあるわ」


「ゴ、ゴールキーパーがトライするのはリスキーじゃ……」


「正論だけど、守りに入っていちゃ勝てないわ」


 ななみの言葉にフォーが答える。ななみが苦笑する。


「な、なんだか矛盾しているような……」


「分かったかしら? レム?」


「わ、分かった……」


「結構よ……それでスラ、あの格闘家リンだけど……」


「う、うん。どうすれば良いラ~?」


「こうすれば良いのよ……アタシの考えはこう……」


 フォーが自身の考えをスラに伝える。スラは驚く。


「え? それで良いラ~?」


「ええ、これで大丈夫なはずよ……」


「ふ、ふ~ん……」


「分かったかしら?」


「わ、分かったラ~」


「結構よ……作戦としてはこんなものかしらね」


「ちょ、ちょっと、フォーちゃん?」


 ななみが問う。フォーが首を傾げる。


「ん?」


「勇者ローへの対策は良いの?」


「ああ……別にないわ」


「な、ないの⁉」


 フォーがレイブンに告げる。


「……なんとしても抑えて、なおかつ上回りなさい……魔王の意地にかけてもね」


「ふっ、ワシを誰だと思っておる……」


 レイブンが不敵に笑う。試合は後半戦を迎える。

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