第9話(4)決意表明の夜

「ぶえっくしょん‼」


「うわっ! 汚いわね~」


 レイブンが盛大にくしゃみをする。隣に座っていたななみが嫌な顔をする。


「ずずっ……」


「はい、ティッシュ」


「うむ……」


 レイブンが鼻を突き出す。


「いや、自分でかみなさいよ」


「……ワシは魔王様じゃぞ?」


「この世界では、人に鼻をかんでもらうのは赤ん坊と一緒なのよ」


「むう……」


 レイブンは渋々、ななみからティッシュを受け取り、鼻をかむ。


「ふふっ、魔王も形無しね……」


 フォーがそれを見て笑う。


「……あの賢者は厄介そうだにゃ~」


「あの赤髪もデカいっすよ……」


「格闘家の相手は大変そうラ~」


「チビかと思いきやデバフ持ちとはな……」


「あの女騎士……」


「ドラゴン娘、要注意だな……」


「アンタたち!」


「!」


 輪を作って、勇者チームについてああだこうだと言っていたメンバーたちがフォーの声に揃ってビクッとなる。フォーが呆れる。


「露骨にビクッとなるんじゃないわよ、揃いも揃って情けないわね~」


「オ、オラをこいつらと一緒にするんじゃないんだべ!」


「なに、クーオ? アンタはビビってないの?」


「当たり前だべ!」


 クーオは胸を張る。


「お前は女騎士に反応しているだけだろう!」


「そうっす! このスケベオーク!」


 ゴブとルトが声を上げる。


「い、いや、別にやましい気持ちはないんだべ……」


「本当かにゃあ?」


 トッケが首を傾げる。


「ほ、本当だべ!」


「……」


「グへへ……」


「はい、ダウト! やましい気持ちがない奴がグへへとは笑わないにゃあ!」


「し、しまっただべ!」


「何をやっているのよ……」


 フォーが冷めた視線を向ける。


「しかし、手ごわい相手だということは間違いない……」


「レムの言う通りラ~」


 レムの呟きにスラが同調する。フォーがため息をつく。


「まったく、しょうがないわね、アンタたち、ちょっと横一列に並びなさい……」


「?」


「早く!」


「‼」


 メンバーが横一列に並ぶ。フォーが頷く。


「後ろ向きなことはもう良いから、明日に向かって決意表明しなさい!」


「け、決意表明⁉」


「そうよ、はい、ゴブ、アンタから!」


「え……か、勝つぞ!」


「クーオ!」


「待ってろ、女騎士!」


「やっぱりやましいわね……ルト!」


「か、快勝してみせるっす!」


「スラ!」


「頑張るラ~」


「なんか力が抜けるわね……レム!」


「全力を尽くす!」


「トッケ!」


「め、目指せ、優勝だにゃ~!」


「う~ん……」


 フォーが首を捻る。スラが尋ねる。


「駄目だったラ~?」


「なんか、パンチが足りないのよね……」


「パ、パンチ?」


「そう、もう一押しが足りないっていうか……」


「も、もう一押しか、難しいな……」


 レムが腕を組む。


「……うん、やっぱり全然ダメ!」


「ええっ⁉」


 ゴブが驚く。


「もっとなんというかこう……心からの叫びが欲しいのよ!」


「心から叫んだだべ!」


「アンタの場合は下心っていうのよ!」


「うおっ⁉」


 フォーがクーオをビシっと指差す。


「なにをやっているんじゃ……」


「あ、レイブン! アンタ、魔王らしく活を入れなさいよ!」


「なんじゃ、魔王らしくとは……」


「いいから!」


「まったく、良いかお前ら……」


 レイブンがメンバーを見渡す。


「……?」


「ワシらはあの勇者どもに負けてはならん、いや、正しくはあの勇者か……」


「………?」


「分からんか?」


「…………?」


「あの勇者め、自分以外のメンバーを女だけにしておる……」


「……‼」


 メンバーが揃ってハッとなる。


「女を複数侍らせるとはまったく勇者の風上にも置けん奴じゃ!」


「そうだ、そうだ!」


「嫌らしい奴だべ!」


「許せないっす!」


「羨ましいラ~」


「確かに……い、いや、許せんな……」


「代われるもんなら代わって欲しいにゃ~」


「良いか、お前ら! 明日は勇者どもを打ち破り、世界征服の狼煙を上げるぞ!」


「うおおっ!」


 レイブンに呼応し、メンバーが揃って雄叫びを上げる。


「うんうん、良いじゃない、『ザ・悪役』って感じだわ~!」


 フォーが満足気に頷く。


「心なしか盛大にフラグを立てているような……」


 ななみが冷めた目でレイブンたちを見つめる。そんなこんなで決勝を迎える。

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