第5話(4)楽しみ

                   ⚽


「ふう……今日はさすがに疲れたわ……まあ、懸念事項は大体片付いたけど……」


 夜になり、ななみがクラブハウスの廊下を歩く、


「ふふっ……」


「むう……」


「ん?」


 ある一室から声が聞こえてくる。


「これは……」


「ふふふっ……」


「レイブンとフォー……よね。何をやっているのかしら?」


 ななみが部屋に近づく。


「なかなかやるな……」


「そうでしょう?」


「これほどまでとは……」


「驚いた?」


「うん?」


 ななみが部屋の前で立ち止まる。


「こんなテクニック、どこで覚えたのじゃ?」


「ふふん、こんなもんじゃないわよ?」


「なんじゃと?」


「これはどうかしら?」


「おおっ!」


「どう?」


「しょ、正直驚いた……」


「ふふん♪」


「ううん?」


 ななみがドアに耳を当てる。


「お次はこうよ!」


「おおうっ⁉」


「まだまだ!」


「ま、待て!」


「ふふっ、待たないわよ……」


「そ、それ以上は……」


「限界かしら?」


「あ、ああ……!」


「ちょ、ちょっと待って! 何をしているの⁉」


 ななみが部屋のドアを勢いよく開ける。


「うわっ⁉ び、びっくりした……」


「ななみ?」


「え……?」


 レイブンとフォーがサッカーゲームに興じていた。


「……何事かと思ったぞ」


「……」


 ななみが頭を抱える。フォーが笑みを浮かべる。


「一体、ナニを想像したのかしらね~」


「ナ、ナニも想像していないわよ!」


 ななみが顔を上げる。


「それはどうかしらね~」


「ぐっ……」


「話がさっぱり見えんのじゃが……」


 レイブンが首を傾げる。


「良いのよ、見えなくて……」


「そうか」


「そうよ」


「それにしても、今日は練習が休みだというのに、色々と動き回っていたようじゃな?」


「ええ、まあね」


「何をしておったのじゃ?」


「懸案事項を片付けたのよ」


「懸案事項?」


「まずゴブちゃんの服を買いに行って……」


「ああ、常に半裸だものね、アイツ……」


 フォーが頷く。


「そうしたら、スラちゃんが店の服を買い占めさせられそうになって……」


「なんでそうなるのよ?」


「さあ……? とにかく大変だったわ……」


「スラも洒落っ気が出てきたな、そういう年頃なんじゃろう」


「スライムにもそういうのあるの?」


 レイブンの呟きにななみが首を傾げる。


「そういや、SNSにクーオが馬鹿食いしている画像と動画が上がっていたわね」


「え……」


「なによ?」


「フォーちゃん、SNS見るんだ……」


「何よ、見ちゃ悪いの?」


「いや、思ったよりもこっちの世界に馴染んでいるなって……」


「一年もいれば嫌でも馴染むわよ」


 フォーが端末を眺める。


「クーオぢゃんだけでなく、レムちゃんにも大食いしてもらおうかなと思ったけど、店側から丁重にお断りされちゃったわ」


「それはそうじゃろうな。奴までその気になればこの街の食糧が尽きる……」


 レイブンがサッカーゲームとは別のゲームに興じながら呟く。


「その後はルトちゃんの部屋探しをね……」


「え? アイツ引っ越すの?」


「思ったよりもお金がかかりそうだから却下したわ。トッケちゃんが魔法で敷地内に建物を作ってくれたから、そこに移ることで満足してくれたわ」


「ああ、あれはトッケが作ったのか……」


「良さげな建物ね。アタシもそっちに移ろうかしら」


「是非ともそうして欲しいわ」


「この部屋もわりと広くて気に入っているのよね~」


「ここって本来はラウンジなのよ、独占しないでちょうだい」


「そう言われてもね~」


「監督室があるでしょ?」


「あそこじゃこうして遊べないじゃない」


「本来遊ぶ場所じゃないのよ、クラブハウスっていうのは」


「そうなの?」


「そうなのよ。数日中に荷物移しておいて」


「え~」


「え~じゃないわよ」


「……やれたらやるわ」


「それ絶対やらないやつでしょう」


「アタシも色々忙しいのよ……」


「遊んでいるじゃないの」


「……! ちょ、ちょっと待って! テ、テレビ!」


 端末を見ていたフォーがテレビのチャンネルを変える。レイブンが声を上げる。


「あっ! もうすぐラスボス戦じゃったのに!」


「アンタも大概馴染んでいるわね……フォー、いきなりどうしたの?」


「見て、緊急記者会見よ!」


「……我々勇者のチームが魔王を打倒します!」


「⁉」

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