第5話(3)住

                  ⚽


「こちらになります……」


「ふむ……」


「いかがでしょうか?」


「日当たりも良くていい感じっすね!」


「ありがとうございます」


 不動産会社の社員がルトに向かって頭を下げる。


「……ここにしようと思うっす!」


「それでは……」


 社員がななみに目配せする。


「う~ん……」


 ななみが首を傾げる。ルトが問う。


「なにか問題があるっすか?」


「ルトちゃん……」


「はい?」


「やっぱりあそこじゃダメなの?」


「あそこ?」


「クラブハウスの敷地内の……」


「いやいや、あそこは狭いっすよ!」


「片付ければ結構な広さのはずよ」


「片付ければって……そもそもあそこって……」


「予備の物置小屋よ。あ……」


 ななみが口元を抑える。


「いや、犬顔だからって、小屋に住まわせておけば良いとでも思っているっしょ⁉」


「そ、そういうわけじゃないけど……」


「ここもクラブハウスから近いから良いじゃないっすか!」


「結構割高なのよね……」


 ななみがぼそっと呟く。


「駅や商業施設からも近く、人気が高いので……」


 社員が笑みを浮かべる。


「う~む……」


 ななみが腕を組む。


「クラブハウスで雑魚寝はもう嫌っす!」


「むう……」


「クーオの奴、寝相が悪いわ、いびきはかくわで、もう大変なんすよ!」


「まあ、その辺はなんとか改善したいとは思っていたけど……」


「その為の引っ越しっす!」


「そうなると、他の皆も自分も自分もと言い出しそうだからねえ……」


「そこをなんとか!」


「ちょっと考えさせて……」


「……」


「……うん、やっぱり今回は無しで」


「ええっ⁉」


「すみませんが……」


「……そうですか、またご検討のほど、お願いいたします」


 社員は頭を下げる。ななみたちはクラブハウスに戻る。


「……納得いかないっすよ!」


「計画ではすぐ近くに選手寮を建設するはずだったんだけどね……」


「それは?」


「色々騒動があって、結局計画そのものが頓挫したわ……」


「そ、そんな⁉」


「えっと……もうしばらく我慢してくれる?」


「そりゃないっすよ!」


「う~ん、選手に良い住環境を提供するのもクラブの務めだと思うけど……」


 ななみが頭を抱える。


「……あの辺のスペースはなんだみゃあ?」


 トッケが窓の外を指差して問う。ななみが答える。


「え? ああ、駐車場をもうちょっと拡張するって話があったんだけど、今は必要ないわね。車で通勤する人がそもそもいないんだし……」


「じゃあ、ちょちょいっと♪」


「!」


 トッケが指を振ると、そこに立派な建物が出来上がった。トッケが満足そうに頷く。


「今日は魔力の調子が比較的良いみゃあ、良いものが出来たみゃあ……」


「おおっ、良い感じっす! あそこに住んでも良いっすか⁉」


「構わんみゃあ。ワシもここで雑魚寝は飽き飽きしていたので……」


「やったっす!」


「トッケちゃん、天才!」


 ななみがトッケに抱き着く。


「ふふん……」


「私も使っていい?」


「それなら家賃が欲しいところだみゃあ……ふみゃあ⁉」


 ななみはトッケの顎を撫でて誤魔化す。

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