第5話(1)衣

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「はあ……」


「ゴブちゃん、ため息をつかないの」


「でも……」


「これはゴブちゃんの為なんだから」


「オイラの為?」


「そうよ」


 ななみがウインクする。


「そ、そうですか……」


「……じゃあ、これを着てみて!」


 ななみが手に取った服をゴブの体にあてる。ななみたちは今、洋服屋に来ている。


「あの……どうしても着ないとダメですか?」


「ダメ」


「ええ……」


「大丈夫、お金はこっちで出すから」


「そうは言われても……」


「とにかく試着だけでもしてもみてちょうだい」


 ななみが試着室を指し示す。


「わ、分かりました……」


 ゴブが試着室に渋々と入る。しばらくして、ななみが尋ねる。


「ゴブちゃん、どう?」


「ああ、はい……」


「開けるわよ?」


「どうぞ……」


 ななみがカーテンを開ける。そこにはスポーティーな服を着たゴブがいた。


「うん、良いじゃない!」


 ななみが頷く。ゴブが首を傾げる。


「そ、そうすか?」


「ええ、とてもよく似合っているわ」


「こ、この服って……」


「うん?」


「いわゆる子供服ってやつじゃないですか?」


「まあ、そうとも言うわね」


「他になんて言うんですか⁉」


「え? ダメ?」


「ダメですよ!」


「しょうがないじゃない、ゴブちゃんのサイズを考えたら、合うのはそういうものになってくるんだから……」


「しょうがないじゃないですよ!」


「なにが不満なのよ?」


「仮にもゴブリン軍団の軍団長であるオイラが子供服なんて着ていたら周りに示しがつかないです!」


「周りに?」


 ななみがゴブにググっと迫る。ゴブが戸惑う。


「は、はい……」


「半裸に近い状態でその辺をウロウロされる方がよっぽど示しがつかないのよ」


「そ、それは……その方が楽だからですよ」


「ダメよ」


「ダ、ダメよって……」


「『郷に入っては郷に従え』ということわざがこの国にはあるの。この国、いや、この世界のルールには従ってもらうわよ」


「そ、そんな……」


「給料を払っているのはこちらよ」


「そ、それを言われると弱いですけど……」


「まったく……あの子を見習いなさい」


「あの子?」


「うわ~お客様、とってもよくお似合いです!」


「そ、そうかラ~?」


「はい、先ほどのも、その前にご試着頂いたのも素敵でした!」


「いや~そんな、素敵だなんて……照れるラ~」


 ななみが指し示した先には店員と楽しそうに談笑するスラの姿があった。


「ほら、あの子は楽しんでいるわよ」


「あいつは基本いつでもどこでも楽しそうですよ……」


「お客様、どんな服も着こなしてしまいますね!」


「いや~どうしても着こなしてしまうラ~」


「もはやセンスの塊ですね!」


「ふふん! それじゃあ、この棚にある服、全部買うラ~」


「はい、お買い上げありがとうございます!」


「ちょ、ちょっと待って! さすがにそこまでの予算はないわよ!」


 ななみが慌てて駆け寄る。


「馴染み過ぎるってのも考えものだよな……」


 ゴブが苦笑する。

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