夜が消えた日

kou

夜が消えた日

 夜が消えた日。

 それは眠る必要が無くなったことを意味した。

 壮一そういちは、事故の後遺症で昼も夜も関係なく、起きていられた。

 眠くない夜というのは、不思議な世界だ。

 だが、壮一にとってその時間は、暇を持て余すものだった。

 ただ、ぼうっと窓の外を見つめるだけの生活が続いた。

 そんな生活に飽きて、ある日ふと、夜中に病院を抜け出してみようと思った。

 真夜中の公園で出会った少女、それが渡瀬わたせ春香はるかだった。

 それから二人は仲良くなり、いつしか友達と呼べる仲になっていた。

 春香は壮一のことをいつも心配してくれていた。

 夜遅くまで遊んでいると親から怒られるとか、そんな理由ではなく、純粋に友達として、彼女は心配してくれた。

 その気持ちが嬉しくて、壮一はもっと遊びたいと、何度も夜の公園へと足を運んだ。

 ある日のこと。

 いつものように二人で遊んでいた時のことだった。

 突然、壮一のお腹が小さく鳴った。

 慌ててお腹を押さえたが、一度鳴り出した音を抑えることは出来なかった。

 恥ずかしさで顔を上げることが出来ずにいると、優しい笑みを浮かべた春香がいた。

 彼女は何かを取り出し、それを壮一に手渡した。

 小さな袋に入ったクッキーだ。

 壮一が戸惑っていると、春香は照れくさそうにはにかんだ。

「私の手作りなんだけど……。良かったら食べてくれる?」

 彼女の言葉を聞いて驚いた。

 壮一は喜んでクッキーを受け取った。

 今まで食べたどのお菓子よりも美味しいと感じた。

「美味しい?」

 不安げに聞いてくる彼女に、大きく首を縦に振って答えた。

「うん。こんなに美味しいの久しぶりだよ……」

 壮一は嬉しそうな顔をして気がつく、自分はいつから寝ていないのだろう、食事をしていないのだろうかと。

「……そうだ。僕、事故で死――」

 そこで言葉を止めた。

 急に怖くなったからだ。

 もし自分が死んだ人間だと知られたら、もう春香に会えなくなるかもしれないと思った。

 すると、そんな壮一を見て察したように、彼女が優しく微笑む。

「大丈夫。あなたは、まだ魂が遊離しているだけよ。自分のことを自覚できたなら戻れるわ。さあ、戻って」

 壮一はその言葉の意味を理解する。

 気がつけば、壮一は病院のベッドに居た。体を起こして辺りを見回す。

 そこは間違いなく病室だった。

 先ほどまでのことは夢だったのか?

 それとも現実だったのか……。

 今こうして生きていることを、壮一は実感していた。

 その日から、壮一に夜が訪れるようになった。

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