第1話

「...わ.......なさい...」



ん...、うん...?



「トワ、起きなさい!」



私の名前を呼んでいる。



「学校遅れるわよ。さっさと着替えてさっさとご飯食べて早く行きなさい。ご飯は、適当によそって、ふりかけでもかけて。」


「...うん...」



眠い目をこすりながら、ゆっくりと体を起こした。



「遅刻するわよ。何回も言わせないで。」



お母さんが、私の掛け布団を剥ぎ取る。



最悪な目覚めだ。


フゥー、と、ため息が聞こえる。



私は、自分の部屋から出ようと、ドア取っ手に手をかける。



「あ、ちょっと。」



呼び止められた。



「しゃもじ、1回分ね。」


「......」



ドアを閉めた。








少量のご飯が湯気を立てる。

憂鬱な朝にも、ふりかけはシャカシャカと陽気な音を立てる。


少しでも満腹感を促すために、よく噛んで食べる。



こんな生活が、もう2年は続いている。


お母さんやお父さんが小太りなところを見るに、家が貧乏でどうしようもないわけではないようだ。


...境遇が悪い子供ほど、物心つくのがより早いらしい。



.........



考えごとをしているうちに、ご飯を食べ終わった。





部屋に戻ると、机の上に、今日着ていく服が積んであった。お母さんが毎日選んで出してくれるのだ。



スカートか...

...こんな可愛いの、似合わないのにな。




時間がないのも事実なので、無駄にフリルのついた布に足を通す。



「...行ってきます」



私が通っている小学校は、家から徒歩3分だ。

なるべく動きたくないので嬉しくはあるが、なにしろ体力の減りが著しいのだ。



私の目はまだ冷めきっていないというのに、都会の人混みは鬱蒼と生い茂っている。

朝日に目眩を起こしながら、信号機の喚き声を聞く。

おまけにセミも喚き、さらには暑さに倒れそうになる。



...まったく、これだから夏は嫌いなんだ。



校門を抜け、下駄箱に靴を入れる。

そして何事もなくいつも通り、教室に向かう。



『5年7組』



いつもの光景。いつもの教室の景色。


いつもと変わらない日常。


退屈な日常。


私のお気に入りだった。



...唯一、心が休まる場所だった。



担任の先生が朝の会を始める。

今日も私は、日直には程遠い。



「それでは出欠を取ります。」


「安藤 絵梨奈さん」「はい」


「井頭 将之介くん」「はーい!」





...少しの時間が過ぎる。



蓮見はすみ 叶羽とわさん」


「...はい」



無気力な私の返事が、沈静した教室に響く。




...私の名前は、蓮見はすみ 叶羽とわ

なんの変哲もない、ただの小学5年生だ。


周りの子との違いを強いて言うなら、

お父さんとお母さんの仲が悪いってことくらい。


夜中の11時頃、最近は毎日のように両親の喧嘩に起こされる。


お母さんは専業主婦?というやつで、お父さんは、なにやら大企業の社員らしい。

でも、お父さんは、私が起きるより先に出かけちゃうし、私が寝た後にしか帰ってこないから、もうあまり会えてない。

夜の喧嘩の声を、部屋からひっそりと聞くくらいしか。



...昔は、よく遊んでくれてたんだけどな。



お母さんは、良くも悪くも金銭的な面以外で、私の面倒を見てくれている。

最近顔がやつれてきていて、少し酷いことを言われても、お母さんに悪くて何も言い返すことができない。


私は、もしかしたら邪魔なだけなのかもしれない、と思ってしまう。



そんなことをぐだぐだと考えていたら、いつの間にか朝の会が終わっていた。










...今日もそれなりの一日が過ぎる。

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