夜が消えた日

紫陽花の花びら

第1話

 六月十日時の記念日。

雪はひとりブランコを揺らしている。夕焼け小焼けが流れると、友達は手を振りながら帰って行く。あんなに楽しかった公園も、今は冷たいコンクリートの塊に見える。

「一番星み~つけた~」

圭兄ちゃんまだかなあ。首からぶら下がるゴムを伸ばしても、よれよれのゴムはもう紐になっている。

「帰ろ」

雪は慌てて走り出した。夕日が沈み、大っ嫌いな夜がすぐそこに来ているから。アパートに帰ってくると、隣の鈴木さんちから夕食を作る音と匂いがして、お腹の虫をが騒ぐ。

「ただいまぁ」

電気をつけ、流しでうがい手洗いを済ませ炊飯器に目をやり、保温になっている事を確認する。

ランドセルから算数のプリントを出し格闘しているうちに雪は眠ってしまった。

「雪起きて、ご飯出来たよ」

「うん? 圭兄ちゃんお帰……」

「ごめんな遅くなって。ご飯食べよ」

「やったコロッケだ!」

圭は高校を今年卒業して、叔父が営む近くのスーパーに就職している。

「学校どうだった?」

「えっとね、国語で詩を書いたんだ。そしたら褒められたよ」

「どんなの書いたの?」

「内緒っ!」

そう言って惚け顔をする額にデコピンをされてキヤッキャと喜ぶ雪。

 夕食を終え、片付けの後お風呂に入り、プリントを何とか終わらせ、翌日の準備を済ませた雪に、

「雪~褒められた詩聞きたいなぁ」

そう言われて、雪はニヤニヤしながらノートを出して読みはじめた。

「夜か嫌い。西野雪」

『夜が大嫌い。夜は気持ちをさみしくさせる。圭兄ちゃんを待っている時が一番さみしい。暗い道自転車を一生懸命こいで帰ってくる圭兄ちゃんが大好き。ドアを開けて雪ただいま!って言ってくれる圭兄ちゃんが大好き。終わり』

「雪上手いなぁ。これは花丸だ」

 その夜、久し振りに雪は圭の布団に入ってきた。

「圭兄ちゃん……なんか話して」

「うん? なんかねぇ……えっとある国で大事件発生です。なんと夜が消えてしまいました。子供達がもっと遊びたいって太陽にお願いしたら、太陽が月を溶かし星を溶かしてしまって。夜が消えたのです。六月十日はその国の歴史書に夜が消えた日として記され語り継がれているそうです」

「噓! 月も星も溶けたの!? 一番星も見えない?」

「うん。でもここは違うから良かった! 雪と一緒に一番星見られてさ」

雪は飛び起きると窓を開け、空を見上げた。

「圭兄ちゃん! 月あった! 星も! 私、夜は圭兄ちゃんといられるから大好きな事に気がつきましたって足すからね!」









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